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HRが始まるチャイムがなって、クラスのみんながそわそわしながら席に座る。
俺は窓際の一番後ろの席で、頬杖をついてぼーっと外を眺めていた。
雨、止まないかな。
そんな事を思っている時だった。
ガラガラッと扉があく音が聞こえて、音のする方へ視線を向けた。
───え?
教室が一気にザワつく。
ザワついているのは分かるのに、あの時と同じ。
俺の耳には何も入ってこない。
まるで水の中にいるみたい。
そんな感じだった。
あの時から俺は、ずっと不機嫌だった。
ずっと後悔していた。
目の前にいる先生が、あの時のあの女性だって知るまで、俺の時間はずっと止まったままだった。
「吉田先生が産休に入るという事で、臨時で赴任してきました、加ヶ梨莉子です。
短い間ですが、よろしくお願いします」
先生の自己紹介が終わって、クラスのみんなは浮足立っていた。
男子たちは「超美人じゃん、やべー」とか言っていて。
女子たちも「カワイイー」「先生キレイ」と先生は持ち前の容姿で、すでにクラスみんなの心を掴んでいた。
「先生、彼氏いるんですかー?!」
クラスで目立つ女子が突拍子もなくそう投げかけて。
「おい、初日に失礼だぞ!で、彼氏いるんですか?」
男子も面白がって参戦している。
「内緒です」
先生は笑顔でそう言って。
クラスがキャー!とうるさくなった。
初めて会った時と違って、先生は髪の毛は後ろに結んでいて。
服装もこの前みたいにラフな感じではなく、かっちりとしたジャケット姿。
全然雰囲気が違うのに、笑顔だけはあの時と一緒だった。
もう一度、会えるなんて思ってもいなかった。
しかも学校で会うなんて。
HRが終わって先生が出て行った瞬間に、クラスのみんなは先生の話でもちきり。
少し複雑だった。
あの人の存在は俺だけが知っていればそれでよかったのに。
「あの先生ならずっと担任でいてほしいよな」
「もうちょっとスカート短かったらなー!」
「生足かな?!」
男子の下品な会話が耳に入ってきて、思わず眉間にしわが寄る。
「夕惺はどう思った?」
柾木に不意に聞かれて。
「別にどうとも」
俺は関心がないかのように返事をする。
「え?あのレベルで何も感じない?!さすがに理想高すぎじゃね?」
「そんなことないって」
「夕惺が好きになる女ってどんなのか興味あるわー」
柾木は俺の顔をじっと見る。
俺が好きになる女。
そんなの、俺だって分かんねーよ。
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