*1 初めての感情 

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HRが始まるチャイムがなって、クラスのみんながそわそわしながら席に座る。 俺は窓際の一番後ろの席で、頬杖をついてぼーっと外を眺めていた。 雨、止まないかな。 そんな事を思っている時だった。 ガラガラッと扉があく音が聞こえて、音のする方へ視線を向けた。 ───え? 教室が一気にザワつく。 ザワついているのは分かるのに、あの時と同じ。 俺の耳には何も入ってこない。 まるで水の中にいるみたい。 そんな感じだった。 あの時から俺は、ずっと不機嫌だった。 ずっと後悔していた。 目の前にいる先生が、あの時のあの女性だって知るまで、俺の時間はずっと止まったままだった。 「吉田先生が産休に入るという事で、臨時で赴任してきました、加ヶ梨莉子です。 短い間ですが、よろしくお願いします」 先生の自己紹介が終わって、クラスのみんなは浮足立っていた。 男子たちは「超美人じゃん、やべー」とか言っていて。 女子たちも「カワイイー」「先生キレイ」と先生は持ち前の容姿で、すでにクラスみんなの心を掴んでいた。 「先生、彼氏いるんですかー?!」 クラスで目立つ女子が突拍子もなくそう投げかけて。 「おい、初日に失礼だぞ!で、彼氏いるんですか?」 男子も面白がって参戦している。 「内緒です」 先生は笑顔でそう言って。 クラスがキャー!とうるさくなった。 初めて会った時と違って、先生は髪の毛は後ろに結んでいて。 服装もこの前みたいにラフな感じではなく、かっちりとしたジャケット姿。 全然雰囲気が違うのに、笑顔だけはあの時と一緒だった。 もう一度、会えるなんて思ってもいなかった。 しかも学校で会うなんて。 HRが終わって先生が出て行った瞬間に、クラスのみんなは先生の話でもちきり。 少し複雑だった。 あの人の存在は俺だけが知っていればそれでよかったのに。 「あの先生ならずっと担任でいてほしいよな」 「もうちょっとスカート短かったらなー!」 「生足かな?!」 男子の下品な会話が耳に入ってきて、思わず眉間にしわが寄る。 「夕惺はどう思った?」 柾木に不意に聞かれて。 「別にどうとも」 俺は関心がないかのように返事をする。 「え?あのレベルで何も感じない?!さすがに理想高すぎじゃね?」 「そんなことないって」 「夕惺が好きになる女ってどんなのか興味あるわー」 柾木は俺の顔をじっと見る。 俺が好きになる女。 そんなの、俺だって分かんねーよ。
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