*1 初めての感情 

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「夕惺くん!」 放課後、教室の入り口で俺を呼ぶ女子が立っていた。 あー、今朝告白してきた子だ。 あれ、名前なんだっけ? 返事をしてカバンを持って近づく。 「夕惺くん、一緒に帰ろう」 そうだった、付き合うことにしたんだった。 「ごめん、やっぱり今朝のなしにしてくんない?」 「え?どういう意味?」 「やっぱり付き合えない」 俺は初めて自分から振った。 「え、あ。そっか、分かった」 目の前の女子は笑顔でさらりとそう言って、すぐに立ち去ってしまった。 なんだ、結構あっけなかったな。 それもそうか。 告白も告白だったし。 「夕惺から振るなんて珍しいな」 後ろで聞いていた柾木。 「そうか?」 俺はとぼけた顔でそのまま教室を出た。 自分でもなんで振ったのか分からない。 気が付いたらもう口が動いていた。 「好きなやつでもできた?」 「そんなんじゃねーよ」 こいつの発言はいつも鋭い気がする。 俺にも分かっていないことを悟っているような。 「ま、いいんじゃね」 「何がだよ」 柾木と廊下を歩いていると、反対側の校舎に加ヶ梨先生が歩いている姿が見えた。 先生か。 これから毎日会えるのか。 そう思うとこの梅雨のジメジメとした嫌な感じも、ずっと不機嫌だった自分も、どこかに飛んでいってしまった。 俺は学校の門のところで柾木と別れて、図書館へ向かった。 いつもは適当に本を選ぶけど、今日はあの本が読みたい。 加ヶ梨先生と初めて会った時に、俺が持っていたあの本。 先生が好きって言ってたから、あの後借りて、俺も読んでみた。 外国の有名な小説で、翻訳されたものらしいけど、俺には難しすぎて全然話が分からなかった。 先生はこの本の何が好きなんだろう。 一度借りて返したその本をもう一度手に取り、椅子に座る。 集中して読み込んでいると 「里巳くんだよね?」 そう言って声をかけてきた人がいた。 顔を上げると、加ヶ梨先生で。 「あ」 間抜けな声が出てしまった。 「あの、違ってたらごめんなんだけど、ずっと前にここで1回会ってるよね?」 え。 先生は俺のこと、覚えててくれたんだ。 何故だか胸がギューっとなるのが分かった。 でも俺は、「そうでしたっけ?」とぼけた返事をする。 鮮明に覚えているのに。 とぼける意味なんてないのに。 「今日クラス入って、里巳くん見た時、なんか見た事あるかも?って思ってたの!」 先生は満面の笑みでそう言った。 また出た、先生のキラースマイル。 「先生、あんまり笑わない方がいいですよ」 「え?なんで?」 その笑顔は男を惹きつけてしまうから。 なんて絶対言えないけど。
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