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*11 それでもやっぱり
10月14日。
教授からお墓の場所を聞いて、俺はこの場所で先生を待っている。
正直どんな顔で先生に会えばいいか分からない。
でもこのまま一生先生に会えないのはイヤだった。
始発の電車でお墓について、用意していた花を添えて手を合わせた。
先生はたぶんこの場所に来る。
だから、
「ちょっとだけ待たせて下さい」
そう言ってお墓の前から離れた。
先生が俺を先に見つけてしまうと、たぶん何も言わずに引き返すと思ったから。
俺は少し遠くで、先生が来るのを待った。
喉が渇いて飲み物でも買ってこようかなと腰を上げた時に、人影を見つけた。
先生を見つけた瞬間音が消える。
風が先生の髪を揺らしていて、初めて会った時と同じように俺の心臓は高鳴った。
久しぶりに見る先生は、やっぱりきれいで。
一瞬にして俺の全部を持って行く。
先生はお墓の前で手を合わせて、お墓に向かって何か喋っているようだった。
その姿に、いろんな感情の渦が巻く。
先生を久しぶりに見ることができて嬉しくて仕方ない気持ちと。
今は亡き先生の恋人に、嫉妬する気持ちと。
先生に頑なに受け入れてもらえなかった、もどかしい気持ち。
そして好きな人が亡くなって辛い思いをしている先生の気持ちを考えると、なんとも複雑だった。
先生が立ち上がって顔を上げた時、俺と初めて目が合った。
「なんでここに…?」
俺を見つけた先生は、すごく驚いていた。
それから眉を下げて、あからさまに困った顔をした。
「先生に会いに来ました」
先生に一歩一歩近づくと
「それ以上来ないで」
と俺を制御する。
それでも俺は足を止めなかった。
「なんでいつも私の言うこと聞いてくれないの…?」
って先生は今にも泣きそうで。
「先生だって俺との約束破ったじゃないですか。お互い様です」
先生の目の前に立つと、あの時の感情が一気に戻ってくる。
手に届きそうで届かない。
あの時のもどかしい気持ちが。
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