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後先なんて何も考えていなくて、ただ体が勝手に動く。
なんでこんなに必死に図書館へ向かっているのかさえ、分からなくなるくらい必死になる。
先生のことになるといつもそうだ。
図書館につくと電気が消えていて、”閉館”と書かれた立て看板を見て、やっと我に返った。
「なにやってんだ、俺…」
閉館時間を過ぎていることなんて、ちょっと考えれば分かることなのに。
会えないんだと悟って、絶望感に苛まれていると、誰かの声が聞こえた。
「なんで、ここにいるんですか?」
ふり返ると青山さんだった。
「なんでって、先生が来たって言うから…」
だから俺、必死に走って…。
「もう会わないんじゃなかったんですか?」
青山さんは呆れたような面持ちで俺に言葉を投げかける。
「それは…」
ついさっきまで先生とはもう会わないって言ってた俺が、青山さんの連絡1つでこの場所に来ている。
そりゃ呆れるよな。
俺も自分自身に呆れてる。
そんな俺を横目に、青山さんは盛大に溜息をついた。
「加ヶ梨さん、あの本借りていきましたよ」
「え?」
「”attachment”。あなたが借主を探していたあの本」
なんで…?
その言葉を聞いて心臓が大きく波を打った。
先生が好きだって言ってた本。
好きだとは言っていたけど先生が読んでる姿は一度も見たことがなかった。
「あの人、約2年間もずっとここには来なかったのに。里巳さんがあの人に会いに行った翌日に図書館に来るなんて、なんなんでしょうかね」
青山さんの言葉は少しとげとげしくて、イライラしているように感じる。
「その本が…読みたくなったから?」
「本気でそんな理由だと思ってます?」
青山さんの目つきが更に鋭くなって、俺へと突き刺さる。
あー、また怒らせちゃった。
でも青山さんが言わんとしていることは分かる。
分かってる。
もしかしたら俺に会いに来たのかもって思ったよ、俺だって。
でも、いつだって先生は絶対そうとは認めないから。
俺がいくら自分にとって都合の良い解釈をしたところで、先生がどう思ってるかなんて分からないんだ。
でも、青山さんのおかげでこれだけははっきりした。
「やっぱ俺、先生に会いたいです」
どれだけ先生のことを想っても全然届かなくて、辛くて苦しくて、もう先生のこと諦めてしまえたらどれだけ楽なんだろうって、いつも思う。
でも結局俺は、いつもこの気持ちにたどり着く。
「先生に会いたい」
「そう言うと思ってました」
青山さんの言葉はさっきとは打って変わってとても優しくて。
顔を見るとさっきまでの怒りに満ち溢れていた青山さんはいなくなっていた。
「本を借りてったってことは、また返しに来ます」
にこやかな笑顔で青山さんは言う。
そっか。
そうだよな。
「きっとまた会えますよ」
会えるかな。
また、先生に会ってもいいのかな。
「何不安そうにしてるんですか?私が会わせてみせます」
そう言った青山さんの目が次第にキラキラと輝きだした。
青山さんはその時の感情がそのまま表に出る人なんだなって思った。
その感情の豊かさがある意味羨ましいとさえ思えるくらいに。
「そう言って頂けると心強いです」
青山さんのおかげで、不思議とさっきまで不安に思っていた気持ちがなくなっていた。
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