*11 それでもやっぱり

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それから俺はまた毎日のように図書館に通った。 青山さんからの連絡を待っててもよかったんだけど、入れ違いになるのはいやだったから。 できるだけ空いた時間は図書館で過ごしていた。 でも先生はずっと来なくて。 せっかく青山さんに後押ししてもらって勇気が出たのに、焦りばかりが膨らんでいく。 やっぱりもうここには来ないんじゃないかって。 あの日が先生と会える最後のチャンスだったのかもしれないって。 不安ばかりが押し寄せる。 なんであの時、先生にあんなひどいこと言っちゃったんだろうって後悔してる。 せめて、そのことだけでも謝りたい。 そうやって時が過ぎていき、とうとう本を返す期限の日になった。 いつもの図書館で、いつもの席に座る。 「今日来ますかね」 青山さんは本を抱えながら俺に聞いていた。 「どうですかね」 今日来なかったら先生を諦める。 なんて、そんな覚悟すらできていない俺。 もし来なかったら俺はどうするんだろう。 そんな俺を諭すように、青山さんは俺の背中を大きく振りかぶって叩いた。 「いっっった」 パチンという音が館内に響き渡る。 「気合い入れて、頑張って下さい。上手くいかなかったら一生呪いたおしますから」 「はい…」 青山さんの顔が真顔すぎて、本気で呪われそう。 でもこうやって応援してくれる人がいると思うだけで、ちょっとだけ強くなれる気がする。 なんだかんだで、青山さんにはいつも救われてるな。 図書館に来てから1時間が過ぎようとしている。 無駄に時計を気にしては、図書館をきょろきょろと見渡す。 あーダメだ、やっぱりソワソワする。 手には尋常じゃないくらいの汗が滲んでくるのに、凍ったように冷たい。 そんな時急にスマホが震えて、館外に出て電話に出た。 柾木からだった。 「お前今どこにいんの?」 「図書館」 「はー?お前マジメかよ、飯でも行こうぜ」 柾木はいつものテンションで、その声を聞くと今のこの緊張がちょっとだけほぐれる気がする。 「ごめん、今日は大事な用事があるから」 「俺より大事な用事ってなんだよ」 いや、やっぱり柾木のこーゆうノリは正直面倒くさい。 でも柾木にはちゃんと言っておきたいと思った。 先生のこと。 「今日、先生に会えるかもしれないんだ」 意を決して言った俺の言葉に、柾木からは何の返事もなかった。 「もしもし?」 俺が投げかけてみても無言は続いて。 「よかったじゃん」 やっと柾木が喋ったと思ったらすごく落ち着いたトーンだった。 「なんか、お前からそんな報告されたことないし、なんかあれだな」 「あれってなんだよ」 「焦るって言うか?よく分かんねーけど」 「なんだよそれ」 電話越しにも柾木の戸惑っている感じが伝わってくる。 なんでも言えって言ったのは柾木なのにな。 「まあ、頑張れよ。失恋したら、俺が慰めてやるからな」 柾木はそう言って電話を切った。 失恋することが前提なんだ。 柾木は人懐っこいんだか、素っ気ないんだか、未だに分からない。 でも柾木と話した後は、止まっていた血液が身体中をめぐるように、指先まで温かくなっていた。 今までの俺だったら、自分の気持ちを誰かに言ったり、相談したりなんて絶対なかったのに。 少しずつだけど俺は変わったのかもしれない。 こうやって、俺のことを気にかけてくれる人がいる。 それは昔の俺からすると全然予想もできなかったことだった。
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