*12 それぞれの想い

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*12 それぞれの想い

館内に戻ると慌てた様子で俺に近づいてくる青山さん。 「どこ行ってたんですか!!加ヶ梨さん、来ましたよ!」 いざ先生の名前を聞くと、心臓が張り裂けそうで。 先生の姿を確認した時は 「本当に来たんだ」 って幻を見るかのように尊く感じた。 「なにぼーっとしてるんですか!もう出て行っちゃいますよ?!」 その言葉にハッとして、急いで先生の後を追った。 もう二度と後悔なんてしたくない。 だから今思っている俺の想いを全部伝えるんだ。 既に図書館の外に出ていた先生を一生懸命追う。 「先生!」 俺の叫び声と共に、先生は立ち止まって振り返った。 先生は俺を見ても驚いた様子も何もなくて。 ただじっと、俺を見つめている。 それだけで無駄にドキドキして。 やっぱり俺に会いに来たのかなって、期待する。 「先生、今からちょっとだけ付き合ってもらえませんか?」 俺の言葉に先生は黙って頷いた。 でも先生はずっと無表情で、何を考えているのか俺にはやっぱり分からない。 高台の夜景が見えるところ。 先生は何も言わず、俺についてきてくれた。 もう二度と会いに来ないでって言ってたくせに。 先生は本当に何を考えているんだろう。 自販機で買ったホットココアを先生に渡すと、 「ありがとう」 そう言って俺の手からホットココアを受け取った。 「夜景キレイね。なんでこんな場所知ってるの?」 「小さい頃、何度か来てて」 「そう」 先生は、この前会った時より穏やかで。 今日はちゃんと冷静に話しができる気がした。 この場所は、俺が小さい頃に1回だけ母親が連れてきてくれた場所。 小さな公園だけど、景色が良くて。 両親が仕事で忙しくて、一人でいるのが寂しいと思った時は、よくこの場所に来ていた。 それをしなくなったのは中学生になった時ぐらいかな。 夜も更けこんできて、より一層寒さが身に染みる。 ふと隣を見ると、ココアをカイロ代わりにしている先生が儚くて。 俺は自分の上着を脱いで先生に被せた。 「いいよ、里巳くんが風邪引いちゃう」 「俺は寒くありませんから」 先生の前ではかっこいい自分でありたい。 そう思うのに、くしゃみが出てしまって。 「ほら、ちゃんと着なさい」 って上着が戻ってくる。 先生っていつもそうだ。 自分のことより他人のことを心配する。 いつの時だって。 「先生、この前はひどいこと言っちゃってごめんなさい…」 これだけは最初に言っておきたかった。 「うんん、私も悪かったから」 「先生は何も悪くないです」 俺が勝手に会いに行って、勝手に先生を傷つけたのに。 それでも先生は、自分も悪かったって言う。 「私、知ってたんだ。私が学校辞めた後も、里巳くんがあの図書館にいること」 「え?」 「いつも里巳くんがいるのを外で確認して、そのまま帰ってた」 先生の言葉はあまりにも信じがたかった。 だったら、 「なんで、声かけてくれなかったんですか…」 俺は先生がいなくなった後も、先生のこと待っていたのに。 すぐ近くにいたならなんで…。
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