*12 それぞれの想い

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「これ以上、あの人のこと裏切りたくないって思ったの」 先生の言う”あの人”ってたぶん、亡くなった先生の恋人のこと。 「それにやっぱり先生と生徒って、ダメじゃん、色々。なのに私は何もかもが中途半端で、里巳くんにもひどいことばっかりしちゃって。里巳くんの気持ち、考える余裕もなくなってた。本当に最低だった」 そう言いながら先生は力なく笑った。 「私たちが初めて会った時のこと覚えてる?」 「覚えてます」 初めて会ったのはあの図書館。 俺は今でも鮮明に覚えているよ。 「あの時、里巳くんが読んでいた本ね、あの人が好きな本だったの」 「え…」 そうだったんだ。 先生が好きだって言ってたあの本は先生の恋人が好きだった本で。 教師を目指していたのもその人のためで。 先生は、いつだって亡くなった恋人のために今を生きている。 「あの時ね、久しぶりに読みたくなって図書館に行ったんだけど、置いてなくて。でも里巳くんが読んでいるの見つけて、なんかびっくりしちゃって。里巳くんが彼に重なって見えたんだよね、全然似てないのに」 なんだ。 「そうだったんですか」 先生にそんな事情があったなんて。 あの時適当に選んだ本が、先生にとってはとても大切な本だったなんて。 あの時の俺は知る由もなかった。 もしあの本を選んでいなかったら、同じ図書館にいても、先生の存在に気づいていなかったかもしれない。 あの時、先生が俺の目の前に座ったのは、俺が彼の好きだった本を読んでいたから。 先生にとって忘れられない恋人と、俺が重なって見えていたなんて。 何とも皮肉な運命だと思った。 「私のせいであの人、死んじゃったの」 「先生のせいじゃ…」 先生の声は少し震えていて。 この話をするのは、すごく辛いんだと思った。 なのに、先生は話すのをやめなかった。 「みんなそう言うの。私のせいじゃないって。その度に辛くて、誰でもいいから私をせめてほしかった。お前のせいであいつは死んだんだって。その方がよっぽど良かった」 先生の言葉は少し投げやりで。 それが逆に先生の辛さを物語っているように感じた。 「だからね、私もう誰とも付き合わないって決めたの。彼の人生私が奪っちゃったんだから、私の人生も彼に捧げるって」 先生は恋人を亡くしてからどれだけ辛い思いをしてきたんだろう。 自分も辛いはずなのに自分のことを責め続けて。 「もう誰も好きにならない自信もあったし、恋愛も一生しないって決めてたの。なのに、里巳くんと出会って…揺らいじゃった」 「え…」 「…好きになっちゃったの、里巳くんのこと」 先生は、俺を頑なに受け入れてくれなかった。 それは俺が生徒だからだって思ってた。 でも違ったんだ。 「ずるいよ、先生…」 「自分でもそう思う…」 切なそうに力なく笑う先生。 今、そんな事言われたら俺は…。
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