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気がつけば俺は、先生をギュッと抱きしめていた。
同時に先生が持っていたココアが落ちて転がっていく音が聞こえる。
「頭では分かってるのに、ダメだった分かってるのに…今でも里巳くんのことが頭から離れないの…。ごめんね」
「なんで謝るんですか…」
抱き寄せた先生の肩が少し揺れている。
きっと先生は、自分でも処理しきれない感情とずっと闘ってたんだ。
もう一生恋愛しないって決めてたのに、俺がしつこくしたから。
だからずっと先生を苦しめていた。
俺は先生を苦しめたい訳じゃない。
でも、だからって俺も自分の感情に嘘はつけない。
「もう自分のこと責めないで下さい」
「でも、私はいろんな人のこと裏切ってるから…」
「先生は誰のことも裏切ってないよ」
そう言ったら、先生は顔を上げて俺と目が合った。
やっぱり先生は泣いていた。
「俺はずっと先生に救われてたよ。そりゃ全然振り向いてもらえなくて辛かったけど、でも先生が俺に与えてくれたものの方が大きかった」
先生は俺の目を見ながら、黙って俺の話を聞いてくれている。
「その恋人のことだって、先生は代わりに教師になろうって頑張ってた。恋人のために自分に何ができるんだろうって一生懸命考えて、今まで生きてきたんでしょ?嬉しいと思ってるよ、きっと」
俺がそう言った瞬間、今度は先生の方から近づいてきて、俺の肩にそっと頭を預けた。
きっと泣いている顔を見られたくないのかなって思ったから、俺はそんな先生をそっと抱きしめた。
「ありがとう、里巳くん」
どのくらいそうしてたんだろう。
先生の肩はずっとゆれていて。
ふと空を見上げると夜空は澄み渡っていて、星がキレイに見える。
こんな満天の星空の下で俺たちは何をやってるんだろうなんて。
第三者から見ると俺が先生を泣かせているように見えてるのかなーとか。
割と冷静な自分がいる。
少しして、先生は次第に落ち着いて来て。
でもずっと「ごめんね」って謝っていた。
それは俺に対しての謝罪なのか、もういない恋人に対しての謝罪なのか分からないけど。
こんなにも誰が泣いている姿を見るのは初めてだった。
俺は女の子が泣くのがどうしても苦手で。
泣かれると、いつもどうしていいか分からなかったけど。
でも今は、ただ先生を守りたいって思った。
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