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「苦しいよ、里巳くん…」
どれくらい抱きしめていたんだろう。
つい腕の力が強くなっていたようで、先生の言葉にハッとした。
でも俺はその力を緩めることができなくて。
「だって離したら、先生またいなくなっちゃうかもって…」
更に力が入ってしまう。
先生が学校を辞めた後、会えなくなったことが尾を引いていた。
「もうどこにも行かない」
「本当に?」
「本当」
先生はそう言うけど全然信用ならない。
「じゃあ、もっと俺を安心させてよ」
もう絶対どこにも行かないって。
もっと俺に夢中になってほしいって、どこまでも貪欲に思ってしまう。
先生はそんな俺の背中に腕をまわしてギュッと力を入れた。
「先生?」
「里巳くんが手を離しても、ずっと抱きしめてるから大丈夫」
「先生ってたまにすごく男前ですよね」
「なによ、男前って」
「かわいい」
「なっ…」
先生は恥ずかしくなったのか、すぐに俺から離れてしまった。
ついさっき、ずっと抱きしめてるって言ったばっかなのに。
でもそんな恥ずかしがっている先生も、かわいいと思ってしまうからしょうがない。
「俺さ、今一人暮らししてんの。だから今度倒れたら誰にも気づいてもらえないかもしれないんだよね」
「え…?」
何を言い出すの?と言わんばかりに、先生の顔がみるみる曇っていくのが分かる。
「不安になった?」
「そりゃ…」
「だったら俺のこと、ちゃんと見ててよ。これからは一番近くで見ていて欲しい」
なんかバカなこと言ってるな俺。
「私でいいの…?」
「先生以外に考えられないんですけど。これからずっと、俺のこと守って」
「なによそれ」
気がつけば、もう先生の涙は引いていて。
「里巳くん、女の子みたいなこと言ってる」
って先生は少し困ったように眉を下げながら笑った。
久しぶりに先生の笑った顔を見た。
「先生にはずっと笑っててほしい」
そう言ったのに、なぜか先生はすぐに真顔になった。
「なんで?」
って聞いたら、
「だって、里巳くん私は笑わない方がいいって言ってたから」
って言うから驚いた。
俺が何気なく言った言葉を覚えていたんだって、ちょっとだけ嬉しくなった。
「そんなの、ライバルを無駄に増やしたくなかったからですよ」
「え?」
「だって、先生の笑顔は俺だけが見ていたいから」
「なにそれ…」
「先生の笑顔は世界一かわいいってこと!」
「…っ」
先生が油断した隙に、俺はまた唇を重ねた。
「もう絶対離さないから」
先生と会うまではこんな気持ち全然知らなかった。
好きすぎて愛おしくて。
誰かを愛することが、こんなにも心地よくて、ドキドキして、儚くて、苦しいなんて。
こんなにいろんな感情が俺を渦巻くことになるなんて思いもしなかった。
大切な感情は全部先生が教えてくれた。
先生。
俺と出会ってくれてありがとう。
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