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*最終章 本当の気持ち
先生と再会してから半年が過ぎた。
俺は時間さえあれば先生に会いに行った。
今日は、明日が休日だからと言って、先生のアパートに無理矢理泊まらせてもらった。
今でもこうやって隣に先生がいて。
そのことが今だに信じられなくて、横で寝ている先生の頬をそっと触る。
頬から伝わる体温を感じて、本当に先生がここにいるって実感する。
そんなことを繰り返していると、先生の目が開いた。
「ちょっとくすぐったいんだけど…」
寝ていたと思っていた先生は、いつの間にか起きていたらしい。
「おはよ」
そう投げかけると、先生は照れ臭そうに「おはよ」って言ってくれた。
それだけで幸せで、このままずっと俺の腕の中に納まっててくれないかなって思う。
今日は休日だというのに、先生には予定があって。
すぐにベッドから出ようとする。
「ちょっと待って」
そんな先生の腕を引っ張ったもんだから、先生も態勢を崩して俺の上に覆いかぶさる形になった。
「積極的ですね、先生」
「ちょっ、里巳くんが腕引っ張るからでしょ」
先生はそう言いながら頬を赤く染めた。
「照れてる先生もかわいい」
「からかわないで」
「からかってない、本当に思ってます」
そう言って先生をぐっと引っ張って自分に近づかせる。
チュッとリップ音をならせば、
「バカっ」
って言って先生はベッドから降りてしまった。
まだ全然足りないのに。
「私、9時には家出るけど里巳くんも一緒に出れそう?」
先生が慌ただしく準備をしながら俺に聞いてきた。
あーあ、先生に予定がなければもっと一緒にいられたのに。
「先生の用事は何時に終わります?」
「午前中には終わると思うけど」
「じゃあ、ここで待っててもいいですか?」
「え、でも里巳くんは予定とかないの?」
「俺の予定は先生第一優先なんで。お昼ご飯作って待ってる」
そう言うと先生は優しく笑った。
「分かった。楽しみにしてるね、里巳くんの料理」
ほら、そんな顔したら脳みそが溶けてしまう。
先生に気づかれないようにそっと近づいて、
「早く帰って来て」
そう言ってまたキスを落とす。
先生が出て行った後のアパートは急にシーンとして、それがすごく寂しく感じる。
早く帰ってこないかなって、ベッドで転がりながら思って。
今の自分の状態があまりに自分らしくなくて、可笑しかった。
先生は俺との関係があってから、教師になることを諦めていた。
「でもあれは俺が一方的にしたことだから」と言ってるのに全然聞いてもらえない。
教卓に立っている先生はすごく輝いてたし、ずっと教師になるために頑張ってきたところを見てきたから、俺の一方的な好意で全部なかったことにさせたくなかった。
それがたとえ元恋人の夢だったそしても。
それを含めて、今の先生だと思うから。
俺の身勝手な行動で全部台無しにさせたくない。
まあ今もこうやって先生と一緒にいる俺が何か言えた義理はないのかもしれないけど。
俺はいつのまにか寝ていたらしくて、目が覚めると11時を過ぎていた。
「やばっ、先生帰ってくるじゃん」
急いで体を起こして、冷蔵庫に入ってる食材を適当に取り出す。
時間がないから簡単にチャーハンを作った。
高校を卒業してから一人暮らしをしながら自炊してたから、多少のものは作れる。
先生、喜んでくれるといいな。
チャーハンが出来上がったのに先生はまだ帰ってこなくて。
座って待っていようとリビングに向かう途中で、棚にぶつかった。
その拍子に一冊のノートが床に落ちてしまった。
拾おうと思って手を伸ばすと、めくれていたページは先生の字で埋まっていた。
「日記?」
一番上には日付が書いてあったから、なんとなくそう思った。
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