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「怒られちゃったな」
へへっと笑いながら言う父に、正憲は下を向き再び歯を食いしばった。
誰のせいだと思ってんだ。誰の。
これで殺されたら化けて出てやる。あ、ダメだ、この男も死んでんのか。くそっ、なんなんだ!
そんなことを頭の中でぐるぐる考えながら、正憲は改めて自分だけが陥っているこの状況を呪った。
前述したように、正憲の父は6年前にこの世を去っている。
が、何故か息子である正憲の前にだけは死んでからもちょくちょくその姿を見せていた。どういうわけか、姿も声も他の人には感じられないらしい。所謂、幽霊というやつだ。
そして、正憲の大学受験の前日、自分が実は泥棒だったという秘密を告げてからは、父は数カ月その姿を現さなかった。これでもう会うことはないのかもしれないな、と考えていた正憲の前に再びふらっと父が現れたのは今週初めの頃。それから今日まで何故か父は正憲の前にしょっちゅう現れており、この銀行強盗にも共に遭遇してしまったというわけだ。
以上、状況説明終わり。
場面は現在の銀行に戻る。
強盗の指示により、彼らが現れてすぐ入口のシャッターは下ろされていた。強盗が15時間際を狙ったのは、外から中の様子が見えなくなっても違和感がないと考えたからである。
強盗の一人が、カウンター内に一人残されていた管理職らしき中年男性に、銀行の金を黒いボストンバッグに入れるよう命じ、残りの二人が一箇所に集めた他の行員や客を監視していた。
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