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 「なあ、これってやっぱり見えてると思うか?」  そう言う父の見る先には、ペット用の小さなキャリーがあった。隣に座るおば様の持物であろうその中には、ぷるぷると震える一匹のチワワさん。その愛らしいお顔と小さな体で精一杯「ウウウウ……」と、父に向かい威嚇している。  動物や赤ん坊は霊が視える、なんていうもんな。どうせなら一回くらいガブリといってやってくれないかな。正憲は思う。  「なんだよぉ、唸るなよぉ」と、犬と会話する父は放っておき、正憲が受付の方へ視線を向けると、ちょうど強盗の一人がお金の入ったバッグを受け取るのが見えた。  とりあえず、これで無事平穏が戻ってくるだろう。銀行の方々には申し訳ないが、さっさと持って行ってくれ。  しかし、そう思い一息ついた正憲の耳に入ってきたのは、平穏とは程遠い、けたたましいサイレンの音だった。
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