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「うーん、やっぱりそうだな。それがいい」と父は何かぶつぶつ言ったかと思うと、正憲に思わぬ提案をした。
「あまり長引くのもなんだし、正憲、強盗取り押さえちゃったらどうだ?」
「は……っ!」
はあ!?と大きな声が出そうになり、慌てて声を落とす。
「いや、何言ってんだよ。できるわけないだろ」
「そうか?あいつら素人強盗だし、大して腕っぷしも強くないと見た。実は体鍛えてる系男子の正憲なら楽勝だぞ」
素人強盗なる言葉が存在するのかとは思いつつ――おそらく父はプロということになるのだろうが――それ以前に考えなくてはいけないことがあった。
「いくら弱くても、銃持ってるやつにかなうわけないだろ。息子殺す気か?」
「まさか、死にゃあせんよ」
だって、と父。
「あの銃ニセモノだぞ?」
――ニセモノ?
「まあ、普通の日本人で本物の銃見たことある人なんて、そういないだろうからな。銀行強盗があの格好で物騒なモノ持ってたら、そりゃ本物かと思うわな」
正憲はハッとした。
そうなのだ。どこか、こんな状況に陥ってもそれ程怯えきれていない自分にずっと違和感を覚えていた。しかし、父の言うことが事実なら思い当たることがある。
思い返してみると、強盗が現れてからただの一度も銃声を聞いていないのだ。
普通、銀行強盗をするならば――まあ、そもそも普通はしないのだろうが――大抵威嚇のためにも一発は銃声を聞かせるものではないだろうか。その方がより恐怖を与えられ、その場をコントロールしやすいはずだ。しかし、彼らはそれをしなかった。何故か。なるべく静かに事を運びたかったとも考えられるが、彼らの銃が偽物であるなら、なるほど合点がいく。発砲しなかったのではなく、発砲出来なかったのだ。
それにしても――
「やっぱり銃とか見たことあるんだな」
悪党を見るような、軽蔑の眼差しを父に向ける。
「いや、そりゃいろんな状況に遭うだろ?泥棒なんかしてると。でも、使ってたわけじゃないぞ。父さんも、さすがにそこまでは」
まあ、それは今いいとして――と正憲。
「アレが偽物だとしてもやらないぞ。強盗取り押さえるとか」
「なんでだよ?」
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