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――正憲。お前も何をしても良いが、どう生きるかは自分で決めろよ――
亡き父はそう言っていた。
ここだけ聞くと、なんだか感動的な話のようだが、話はそう単純なものではない。『お前も何をしても良いが』。ここが割と重要だったりする。
というのも、正憲の父は泥棒だった。
そう、全く世の為人の為にならない、あの泥棒だ。つまり、子供が何をしようと、偉そうに咎められない立場だったというわけである。
そして、父が泥棒だったことをつい最近知った正憲は、絶対にまっとうに生きてやろうと心に誓ったのだった。
目指すはただ一つ。絶対に父のようにはならない!と。
真面目に勉強をして、見事志望大学にも合格した正憲は、夢のキャンパスライフを送り始めていた。平穏な毎日。平穏な人生。全ては上手くいっている。平穏最高!
そんな正憲が今現在置かれている状況がこれだ。
「全員大人しくそこに座れ!一人でも妙な動きしたらぶっ殺すぞ!」
黒ずくめの上下に、「本当に被るんだアレ」と思ってしまうほどに典型的な目出し帽を被った三人組。その一人が手に持った銃をこちらに向けながら叫ぶ。
6月も下旬に差し掛かろうかという頃の金曜日。15時前の銀行に居合わせてしまった客と行員、そして初老の警備員は映画のようなその光景に戸惑いながらも、大人しく従うしかなかった。
そして、それは客の一人である正憲も例外ではなく、両手を挙げながら指示された場所に座り込むと、聞きなれた声が聞こえてきた。
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