十話 引きこもりでもいい

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十話 引きこもりでもいい

母になると実感する程に腹の中にある、心音は僅かに感じることが出来ると思うほど、この小さな存在に只感動する 子供なんて、とか思ってたけど、いざデキたら嬉しいもので、自分のお腹に"命"があるってことが不思議でならない それに自分だと分かるほどに、ほんの僅かに膨らみも感じ始めた 月一度のエコーの検査がそろそろ有るけれど、行きたくないと言ってるから、もう少し後になると思う あの医者に会うのはなんだか嫌だし、外に出るのも気が進まない " ゲームオーバー " 『 あー!負けた!! 』 「 ふっ、勝った 」 外に出なくても引きこもり生活は続行してるから、気にはならない 休みの日は隆一も一緒にいるし、欲しいゲームや本は買って貰えるし、監禁とは思わないほどに快適だ ナマケモノになったほどに、彼に任せっきりだけど本人は満足気にしてるからいいのかな… 今日は朝御飯を終えた後、部屋の掃除を終えた彼が、ゲームをしていた私のところに戻ってきては一緒にカーレースゲームをし始めた プロジェクターを置いて壁にスクリーンを貼って使ってる為にチャンネルとかは無い でも、ゲームが出来たら十分じゃん! アイテムを使いながら相手より先にゴールする、子供から大人まで遊べるカーレースゲーム 現在、三試合とも負けてるのに楽しい 『 狡い!変なところ入らなかった?あそこって入れたの!? 』 「 嗚呼、トンネル手前の草村から斜めに突っ切るやつだろ?態々、コース入らなくとも近道出来る 」 休みの日はこれでもかって位にベタベタしてくる隆一は、現在安定の席になってるように私を膝に乗せ肩口へと顎を置き、軽く抱き締めるようにコントローラを持っていた 『 普段からゲームしてる私より知ってるなんて…… 』 「 バナナ投げられたときにスピンして入ってな、あー……行けるんだなって知った 」 『 コンピューターめ!! 』 御互いにアイテムを投げ合うのは、コンピューター相手だけ、それだけ二人が一位と二位を競ってるから強い方なんだけど…今だけ、自動で動くキャラにイラッとする 「 ふっ、もう一回するか? 」 『 する! 』 「 よし、始めるか 」 ゲームに付き合ってくれる彼氏とかって、理想だったんだ~なんてその楽しそうに笑う横顔を見て改めて思ってから、スクリーンへと視線を戻す 残念な事に、全敗した 『 ちょっとは負けてよ…… 』 「 それは出来ない、俺は男の子なので。さて、そろそろ昼御飯だ…準備する 」 男の子なので、って可愛く言ったつもりかも知れないけど、可愛くない! 負けて!ちょっと手加減とか知らないの!? 本当、勝負事は負けないよね!と思って諦めて笑えば私を膝から横へと移動させた彼は立ち上がる 『 あ、今日は私が作りたい! 』 「 匂いでダメだろ? 」 『 大丈夫!たまには料理したい!! 』 されっぱなしは気に入らないと思い、服を掴んで言えば彼は困ったように眉を下げては答えた 「 分かった、なら頼むな 」 『 うん!オムライス、食べたいし頑張る! 』 「 ……玉子、アウトだろ 」 今日は平気かも知れないと、拳を握り締め笑顔を向けてからコントローラを置きキッチンへと向かう 普段、彼が使っているエプロンを手に取り首にかけ背中の腰でリボン結びにし、シンクで手を洗えばゲームを片付けた彼は、カウンターキッチンの前へと座る 「 悪くないな、嫁がご飯の準備をするなんて…… 」 『 でしょ?今日はそこで見てて 』 「 嗚呼、エプロン姿の可愛い御前を見てるよ 」 『 っ……五月蝿い 』 よくそんなことをサラッと言えるよ 本当に、タラシみたいな口振りに頬が熱くなる感覚を堪えて、出来るだけ匂いが気にならないよう二重にマスクをつけ材料の人参、玉葱、鶏肉を取り出す 久々に触る包丁に、こんな大きさだっけ?と思えば珈琲を飲んでる彼は答えた 「 それ、出刃包丁。野菜なら薄刃包丁がいい…そっちだ 」 『 こっち?あー……これは見たことある 』 包丁の名前なんて知るか!どれも様々な事に使える、これ一本でいいんじゃないかって内心思って包丁持ちかえ洗った人参を切る 「 ……危なっかしいな…見てて怖い 」 『 そんなこと無い……料理作れるし……わっ! 』 「 っ!? 」 みじん切りにするために切っていれば、スルッと包丁が滑りダンッ!とまな板に当たる音と咄嗟に猫の手にしてた方を引っ込めれば、目の前にいる隆一は驚いた表情を見せる 「 怪我してないか? 」 『 してないから、大丈夫! 』 「 …心配でストレス胃炎になりそうだ…… 」 見なくていいと、言っても見るようでじっと見られてやり辛いまま人参をみじん切りにし、やっと終われば小皿にいれ、次に玉葱を切る 『 っ…… 』 「 新玉葱だからな…。繊維に反して切るといいが、その分な… 」 玉葱って何でこんな泣けるんだろ 眼鏡つけてるのに関係無く涙を流し切っていれば、平然そうな隆一は立ち上がる 「 あー、その手で目を触るな。玉葱やってやるから顔洗って来い 」 『 ん……分かった…… 』 玉葱によってギブアップして、一旦エプロンを置いてキッチンから離れて、風呂場にある洗面器へと向かった マスクと眼鏡を外し、手を洗ってから顔を洗い目薬を使う なんとか痛みは無くなり、キッチンに戻ったときには玉葱はみじん切りになってた 早業に驚くことすら出来ない 「 次は? 」 『 んと……チキンを小さく切って……わっ! 』 「 御前なぁ~!血の気が引くだろ! 」 皮によってずるっと滑った包丁、人参と同じような事をすれば隆一の過保護はピークに達してきた 「 ……俺がやる 」 『 やだ!私が作る! 』 「 遅いし、危なかっしいから指示だけしてくれ 」 嫌とばかりに眉を寄せる私を気にせず、全く同じだけど他のエプロンを着けてる彼は隣に立ち、包丁を持ちチキンを切り始めた 『 わ……うまっ…… 』 「 仕事も家事もこなせるように小さい頃から教わってたからな。新しい料理はレシピさえ見れば作れる 」 料理美味しいけど、そんな教育されてたんだと改めて育った環境の違いを実感して手際の良さを隣で見た後にフライパンを取り出し、コンロに火を付け油を引く 『 ……隆ちゃん凄いね。私は食べた味は再現できるけど、食べたこと無いのはよく分からなくなる 』 「 そんなもんだろ……というか、油の匂いだめだったか? 」 油の匂いと共に、キッチンから離れた場所に移動してマスクの上から押さえてる私は、何度か頷き彼は少し考えて、油をキッチンペーパーで取り減せば、野菜から炒める 「 分かった……ケチャップライスじゃ無くなるが、少しさっぱりした炒飯に変えてもいいか? 」 作ることを諦めた私は、数回頷き彼は野菜を炒めてから、冷蔵庫からレモンを取り出し半分に切り、軽く搾ってはもう一度軽く炒め チキンに色がつけば白ご飯を入れ、フライパンを動かしパラパラの炒飯みたいにして、搾ったレモンの皮をすり入れ よく分からないスパイスと共にご飯が出来上がり、オムライス用の玉子を作る 「 ミルク入れるが平気か? 」 『 食べてみないと分からない… 』 「 分かった。取り敢えずオムレツは普段通りに作る 」 あのふわとろ玉子だ!と思い見ていれば、片手で卵を小皿に割り、殻が入ってないのを確認してから容器に入れ箸でしっかりとかき混ぜ、 ミルク(牛乳)とレモン汁を入れてから一回りは小さいフライパンを使ってオムライスを作る よくTVとかで見る、手首を叩いて手前に巻くやり方で形を作った炒飯の上に乗せ皿を持ち、ダイニングテーブルに置く 「 ほら、やってみたいだろ? 」 『 うん! 』 ディナーナイフを向けられた事に頷いて近付き、持てば軽く横に線を入れれば中は開く ふわとろの中が外側に出たことに感動する 『 凄い!これ、そうやって作るんだ! 』 「 普通のオムライスの内側を外にしただけだがな。俺のも作ってくる 」 ナイフを置き、早々に自分の分を作り始めた彼は私のより一回り大きいのを作り持ってくる 『 切りたい! 』 「 どうぞ 」 真ん中を切るのは楽しいと、彼の分も同じくすればその爽快感にマスクの中で笑顔を浮かべる 「 楽しそうでなによりだ。じゃ……食べるか。無理するなよ? 」 『 うん! 』 換気扇はフルで動いてる為に、既に匂いは気にならない ダイニングテーブルの椅子に座り、いつもの席で向き合うようにすれば両手を合わせる 『 いただきます 』 「 いただきます 」 『 結局作ってもらった…… 』 「 十分さ、ありがとうな 」 マスクを外しながら軽く首を振り、余り嗅がないよう口呼吸を意識してケチャップだけはいけるために、玉子にケチャップを付け、スプーンで掬って口へと含む 『 ん…!美味しい、さっぱりしてる! 』 「 玉子も大丈夫そうか? 」 『 大丈夫!美味しいよ 』 「 そうか、良かった。インド風のレモンライスだが、あっさりしてるだろ 」 玉子も油を殆ど使わず作ってくれたらしく、気持ち悪くない 玉子焼きは無理だったけど、これは食べれると頷き昼御飯に頬を緩める 『 すぐに料理変更できるの凄いね。いつもレシピばかり見てるから、出来ないと思ってた 』 「 あれは管理栄養士から送られてくるメニューだからな……カロリー気にしないなら、基本的に作れる 」 『 私は…そっちがいいな。その方が、食べれるの多そう 』 管理栄養士からのメニューは確かに数も多く、バランスよく栄養も良さそうだけど食べれなかったりする でも、私が食べれるものを知ってきた隆一の手料理の方がそうやって食べれると思い、少しあざとく言えば彼は、目線を外し頬を掻く 「 ルイが……食えると言うなら。作る… 」 『 うん、作って 』 「 嗚呼、任せろ 」 どうやら私の旦那さんは、素直に御願いした方が嬉しいらしくて照れたように目線を外した後に、オムライスをガツガツと普段通りに食べていく 綺麗な黄色いオムライス、これもいいなって思って食べ終えてから、皿を片付けて午後からの休憩をする 『 隆一ちゃんおいで、休まない? 』 「 ……御前、俺の扱い上手くなったな? 」 ソファーに座って太股を軽く叩けば、彼は眉を寄せるもすぐに横たわり此方へと顔を向け頭を乗せてきた 『 そうかな?気のせいさー…ほら、ねんね~ 』 「 ……ん、少し…休む…… 」 年上の男性に甘えられる事の楽しいような、嬉しい感覚を実感して、頭を撫でていれば彼はゆっくりと眠りにつく 私はその間、横に置いていた小説を手にして読み 片手を時折頭に触れ、髪にそって撫でれば規則正しい寝息は聞こえてくる 信頼してくれるからそうやって無防備に寝るんだろうね… 「 気持ち良くて寝過ぎた……大丈夫か? 」 『 足が痺れてる……ぎゃ!触るな! 』 「 ははっ、そう言われると触りたくなるだろ 」 蓮さんの前ではちょっとクールなのに、私の前では笑ったりふざけてみたりする彼を見て好きだなって実感するし 休日の恋人らしい雰囲気は、とても気に入ってる でも、私は仕事をしてる時の彼を知らない……
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