五話 忘れたのは御前の方

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五話 忘れたのは御前の方

~ 隆一 視点 ~ 高層マンションを下りれば玄関の前で、蓮が車を一時停止させ待っていた 助手席へと乗り込み鞄を足元へと置きシートベルを付ければ何かを悟ったらしく、鼻で笑うような弟の横顔へと視線をやる 「 ルイさんはどうですか?貴方が目を付けてた女性は…… 」 「 ……そそるほどいい女だ 」 「 そうでしょうね。昨日よりいい顔をしてる 」 外へと視線を戻すと同時に車は走り出す ルイは覚えてないが、初めて会ったのはヤった日じゃない 前々から知っていた、それもかなり古くからだ だが彼奴は何一つ覚えてなくて、昔の約束すら忘れていた それになんだ、酒に酔ったからと抱かれるのは… もう少し抵抗がある方が良かったとあの日は思ったが、求めてくる声や身体に理性の糸は切れていた 「 ……だが、彼奴は俺を怖がってる 」 「 当たり前でしょ。昨日の事を思い出してください。まともに面識無い人に子供産めって言われたら怖がります 」 「 子供が欲しいと言ったのは彼奴だ 」 「 何歳の頃の約束ですか…… 」 何歳だったか、蓮に言われて改めて思えばまともに彼奴の年齢を知らない 「 俺が十三歳の時だな……許嫁候補を決める日だ 」 「 ルイさんが三歳の時じゃないですか……、僕が十歳の時か 」 外を眺めながら忘れそうな程に昔の事を思い出していた あれは確か、二十一年前 俺がまだ十三歳だった時だ 五十嵐グループの上層部によって開かれた、自分の息子や娘達を連れたお見合いを兼ねたパーティーが開かれた よく言う、許嫁を決めたり、子供達ではなく両親との相性を見るもの その中で社長の息子である、俺と蓮も参加してたんだが……殆どの女子には興味なかった 「 ふぁ……蓮、御前好みいるか? 」 「 居ませんね…… 」 昔から敬語が癖なのは、周りの連中の影響だろ 大欠伸をする俺の横で、つられて欠伸を漏らす蓮は軽く目を擦る お見合いパーティーって言うのに夜の二十一時から行われて 子供達は眠くて仕方無い、それなのに親達は酒を飲み仕事の話やらをしていく 「 だよな……ちょっと抜けるわ。父さんになにか言われたら誤魔化しててくれ 」 「 あ、ちょっ…りゅう! 」 僕一人だと無理だとばかりに言う蓮を放置して、トイレに向かった フロアから出た先にあるトイレへと行き、スッキリさせてから手を洗い出てくる 「 おや、隆一くん? 」 「 えっと…… 」 五十嵐グループと言っても親戚だけではなく、各会社の社長達もいるわけで十三歳其処等のクソガキに、全員把握してるわけがない トイレに来た金髪に青い目をした如何にも外国人は、片手に繋いでいる小さな女の子を連れていた 「 僕はアラン・ド・シェパード。今日は社長の連れ、色んな料理食べれるからって娘達に食べさせたくて 」 「 ……まぁ、色々あるな 」 シェパード、犬みたいな名前だと思い印象はあった 軽く自己紹介をしていれば小さな女の子は眉を寄せて脚を動かす 『 ぱぱ、ちった……もれる…… 』 「 あ、そうだね。ごめんね…行こっか 」 この歳ぐらいならまだ男子トイレに連れて行かれるだろ そのまま男子の方に入った様子を見てから、何気無くその場で待っていた あの小さい女の子の容姿が気に入ったからだ それ以外の理由はなく、単純な興味本位で待っていれば彼等は出て来て 『 しゅっきりしたー! 』 「 良かったね。また食べる? 」 『 たべるー! 』 うんうんと頷いた子供が立ち去ろうとすることに、止めたんだ 「 アランさん、待ってほしい…… 」 「 ん?なにかな? 」 「 その…その子と一緒にご飯食べていいかな? 」 「 えっ?いいよ?でも、危ないから僕も一緒ね? 」 俺が声をかけた事に驚いた、若々しくて細身で格好いいこの人と共にフロアへと戻り 子供用の料理が多く並ぶテーブルに付き、隣同士の席に座る 『 あーん! 』 「 ふふっ、おいしい? 」 『 おいひっ! 』 料理を食べて嬉しそうに頬に触れて、笑顔を浮かべる子が可愛いと思った まだ立場も分かってないから、俺がどんな人間でどんな将来があるかも知ってない だからこそ、その笑顔のまま手にもったミニトマトを向けてきた 正直、ミニトマトの中身がぶちゅっとして出てくるのが嫌いで眉を寄せてたのだが、女の子は口を開く 『 ほら、あーん…は? 』 「 っ……あー…… 」 何故俺が、そう思いながら口を開きミニトマトを食べれば笑顔で首を傾げる様子を見て飲み込んでいた 『 おいち? 』 「 おい、しい…… 」 「 ははっ…。 隆一君ごめんね、ルイは…食べさせるの好きだから 」 「 あ、いや…大丈夫です 」 困ったように笑った彼に、平気だと告げればシェパードさんの元にどっかの社長らしき人物は近付いた 「 アランくんちょっといいかね? 」 「 はい。あ、ルイちゃん。変なの食べたらダメだからね?……今行きます 」 本当、コキ使われるような人物だと思い離れていく様子を見てからルイと呼ばれる女の子に見る 皿に入ってる食べてもいいものを、頬いっぱいに膨らませて食べる様子を眺める 「 なぁ……俺と、一緒になったらもっと美味しいもの食べれるぞ。欲しくないか? 」 『 ごはん? 』 「 そう、ケーキとか…… 」 軽く手を伸ばし、ショートケーキを持ちフォークで掬えばキラキラの目は俺ではなくケーキに向く 『 けぇき!ほしいっ! 』 「 そうだろ?他に欲しいものはないか? 」 口に含ませて、食べさせれば嬉しそうに笑顔を向けるルイは、少し考えて答えた 『 あかちゃん! 』 「 子供?なんで? 」 『 んー!るいも、おねぇちゃんになりたい! 』 確か娘達に、と言ってたからもう一人ぐらいは姉がいるのだろ 俺と弟の二人兄弟だ、なら二人ぐらいは欲しいと思うのは必然的 「 なら、約束しよ。沢山食わせてやる、そして子供も二人作ろう 」 『 うん!! 』 「 ちょっ、隆一!?何言ってるんですか!? 」 小指を向ければ同じく小さな小指を絡ませたルイは、口元に生クリームを付けて笑っていた 俺の居場所に気付き、やって来た蓮は聞いてたのか焦ったように告げハンカチをもってルイの口の回りを拭く 「 何故だ?そういうパーティーだろ? 」 「 年齢考えてください!まだこんなに小さいのに! 」 「 ……その内、でかくなるさ 」 大人達を見ていれば、少なからずこの子もそうなる どんな姿に成長するかは分からないが、他のガツガツやってくる女子よりいい 「 ……ハァー。お父さんに絶対に反対されます 」 「 じゃ、聞いてきてやる。ルイ、ちょっと来い 」 『 ん? 』 「 えっ、今から!? 」 お菓子上げると告げて、ルイの片手を引き人込みを歩けば俺に気づいて大人達は左右に避ける そして、囲まれた父親の元に行けばあの社長から紹介されていた、シェパードさんの姿がある 「 お父さん、ちょっと話がある 」 「 おや、隆一。誰か見つけたかい? 」 驚くシェパードさんをチラッと見てから、掴んでた子を引き寄せ、抱き締めた 「 俺、この子と結婚するから。宜しく 」 「「 !!?? 」」 十三歳の少年が選んだ子は、歳が近いものではなくもっと低くて幼い少女 辺りの人達は驚いて動揺すれば、父親の目は見開いた後にケラケラと大きな声で笑い始めた 「 あははっ!流石、俺の息子だな!だが流石にその子は小さい。アランくん、もう一人の娘はどこかね? 」 「 あ、はい。ルカちゃんおいで 」 どうやらシェパード家の娘だと知ってるようで もう一人の娘を呼んだ、料理片手に食べている蓮と同い年ぐらいの子は首を傾げる 「 なに?パパ 」 その言葉にシェパードさんではなく、俺の父親が答えた 「 容姿も似てるし、隆一…この子にしたらどうかね?将来性がある子だ。女は美貌があれば仕事なんてしなくていいからね 」 優秀な子孫さえ残せれば、そう告げた父親に俺は料理を持つルカへと視線をやる 吊り長の目付きの悪さ、その点ルイはくりっくりの大きな目をしてる 「 えっ、俺はこっちがいい…… 」 「 そう言わず。アランくん、ルカさんをお嫁に貰ってもいいかね? 」 「 えっと……ルカが大丈夫なら…… 」 ルカの答えが全てになれば、彼女は立場など気にせず俺にフォークを向けてきた 「 二十年後までに結婚してなかったらいいよ! 」 「 ほぅ?上等じゃないか、結婚しろよ 」 「 ちょっ、二人とも…… 」 「 あははっ!では決まりだ。隆一のお嫁さんはシェパード家のルカちゃんになった 」 其々賛否両論は有るだろうが、五十嵐グループのトップが決めた事 彼等は拍手をして、それに祝福していた けれど、契約を書いた半年後にシェパードさんは疲労で亡くなった 仕事中に倒れて、そのまま帰らぬ人になりそんなにハードな仕事をさせたとして、奥さんは五十嵐グループから手を引いた 俺達とは関係無い人であり、俺にまた次のお見合いの話が持ち上がる だが、来るもの全てに告げた 二十年後まで待ってくれ……と… 中学一年生頃の記憶なんて忘れることもなく、仕事の事や夫らしい勉強もしつつ成長していれば 父親の引退を兼ねて三年前に五十嵐グループのトップになった 「 蓮……俺は、何歳だっけ? 」 「 現在……三十四歳ですね。結婚しないんですか? 」 「 二十年は過ぎたか……ルカとルイを調べ上げてくれ 」 「 一途ですね……分かりました 」 そして蓮が調べ、シェパード家の二人はまだ結婚してはない その事に内心喜んだが、先に姉のルカに連絡をすれば彼氏がいるからと拒否され 妹なら、と言われた 姉もちゃんと覚えてた為に、こうなるように一つのシナリオを作った ホテルに連れて話す程度だったんだが、抱いたのは誤算だが……結局、結婚したのだからいい 「 好きになったきっかけはなんですか? 」 「 嫌いなトマトが食えるようになった…… 」 「 それって重要ですか? 」 「 かなりな……この世はトマト料理が多い 」 嫌いな物を克服できるあの笑顔は、朝御飯を一緒に食べたときも変わらない程に愛らしいものがあった 「 二十一年待っていたんだ……離すわけがない 」 「 その執着、恐ろしいですね…… 」 「 御前も彼女作れ、いや結婚しろ。いいぞー可愛い 」 「 貴方見てると欲しくなくなります 」 行ってらっしゃいと言って貰える言葉 恥ずかしそうにキスを欲しがる表情 ほんの僅かなパーティーの間に出逢ったのに、 俺はあの日から、ルイとしか子供を作らないと決めていた 俺が三十四歳になる男だ、子供を急かして欲しがってもいいだろ……なぁ、ルイ
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