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八話 本当の苦難は此処から
大きな病院にたどり着き、その中にある婦人科へと向かった
蓮さんが連絡してたみたいで、順番待ちまで長くは無かったし
ずっと隣に居てくれる隆一に今だけ安心していれば、蓮さんは通路に出て待っていた
『 なんで……隆ちゃんは離れないの? 』
「 ……好きなやつの傍に居たいだけだ 」
『 いつもそういうよね…ちゃんとした理由を教えてくれない…… 』
もっと正確な答えが有る筈なのに、彼は誤魔化すように後頭部へと頬を擦り当てた
「 五十嵐ルイさん、どうぞ 」
『 はい…隆ちゃん、ついてきてよ…… 』
「 ちゃんと行くさ 」
一人は不安だと手を引けば、彼は笑みを浮かべついてきた
共に診療所室へと入れば其処には若くはないにしろ、ベテランそうな五十代のおばさんの婦人科医が座っていた
「 こんにちは隆一さん。此所に来るのは何回目だろうね? 」
『 えっ? 』
「 俺が連れてきたんだ…確実に決まってるだろ 」
「 前回もそう言って、貴方の子を孕んだと言ってた女の子を連れてきたでしょ? 」
話が分からないと二人を見れば、隆一の表情は曇り機嫌が悪いと分かる
婦人科に何回目と言われるほど来るものなの?
孕んだって……他にも奥さんがいるの?
疑問になり、不安だと思う私を気にしてかキッパリと答えた
「 今までは子供に俺の遺伝子は無かっただろ。俺は誰一人抱いてはない。だが、ルイは違う…。俺が抱いてずっと傍にいんだ……他の奴の子じゃねぇ…俺達の子だ 」
「 ……そう、では検査をしましょう 」
この人は信じてないって顔をした
けれど、誰一人抱いてないと告げた彼に私は少しだけ嬉しいと思う
話と共に、診療台へと横になって最新の立体映像で見える映像に眉は寄る
「 ……妊娠八週目位でしょうね。つわりも有るみたいですし… 」
「 ルイ…良かったな。おめでとう 」
『 ……うん… 』
やっぱり妊娠した……その事に嬉しくなくて、返事が小さくなれば彼女は言葉を続ける
「 今回も産まれて直ぐにDNA検査するんでしょ? 」
「 当たり前だろ。そんな事より教えてくれ…大丈夫なのか? 」
「 少し痩せ気味なのが気になるから、管理栄養士に伝えとくわ 」
「 嗚呼…… 」
私はよく分からないまま、二人の話を聞いていた
安定期に入るまで安静と言うか監禁されるんだろうなってどこか思っていれば
妊婦さんの食べれるものとか、気持ちのコントロールなどのパンフレットみたいなのを貰った
予定日は十二月頃らしい
「 お疲れ様…どうしでした? 」
『 お腹に……赤ちゃんいるって変な感じ……。八週間目だって 』
「 それはおめでとうございます。女性だけの……って、なんで隆一はそんな不機嫌なんですか? 」
軽く下腹を撫でていれば、蓮さんは後ろに立つ不機嫌極まりない、隆一を見て傾げては彼は親指を扉へと向けた
「 俺の子じゃないといい始めてな。しまいには、俺が見てない間に浮気したんじゃねぇかって……なわけあるか…… 」
「 流石に、何度も妊娠した、っていう女性がいたら疑いますよ 」
『 蓮さん……どういうこと? 』
「 車の中で話しましょう 」
此処だと周囲の目があるからと、車へと戻れば
彼は家に帰る方向に車を走らせて答えてくれた
何故、監禁してから行為をしたのか…外に出すことをさせなかったのか
大企業である五十嵐グループのトップある隆一の子供を孕んだと言えば、保険金やら結婚を持ちかけてくる女性が多かったらしい
その度に検査して、自分の子でないと証明してたらしく
逆に証明するために、監禁してから行為をしたと…
監視カメラは実際には玄関の入り口と、通路にしか無くて、他の男との接触も厳しく拒否したのはそのせいもあると……
妊娠してる期間中、私の負担にならないよう少しでもバッシングから逃れるためって……
『 待って、私……別に妊娠しなくてよくない!? 』
「 やだ…。俺は御前との子供が欲しい…… 」
『 身勝手!! 』
妊娠しなくても結婚生活が出来る
そう言えば、外を向いていた隆一の視線は此方を向き片手で腹下へと触れた
「 俺の子じゃないと…結婚式を挙げる許可が下りないんだ。……それだけ俺は、御前を待っていた 」
『 待つって…… 』
「 御前が三歳で、俺が十三歳の時に結婚して子供を二人作る約束をしたんだ 」
過去にあった出来事を真剣に話し始めた彼に、同情とか忘れてごめんね、とか思うより先に気持ち悪くて身を引いた
『 執着心に引く。三十四歳でDTのくせに孕ませたことに……。もう、世間様はビックリだよ 』
「 童貞は関係ねぇだろ……御前、くれてやった日の事を忘れてるくせに…… 」
『 酒の飲み過ぎで…あは 』
あの日の事は、格好いい人がヤってくれたなー、あはは~みたいな感覚だったから忘れてけど
今思えば、やることは卑猥と言うかやっぱりクズ
「 隆一が気持ち悪いのは昔から変わりませんので……見た目だけで、中身は執着心と嫉妬の塊りですね 」
『 余裕がない男ってこわ……! 』
「 御前等……俺のメンタルが傷付くぞ 」
実際にそうだと言えば、蓮さんも頷いてくれた
やっぱり結婚したいが為に子供産ませようとした事に引くよ
まぁ、産むことになってる雰囲気にお腹を撫でていた
「 では、ルイさん。安定期に入ったらデートとか行けるので楽しんでくださいね。何かあれば連絡ください 」
『 はーい!蓮さん、ありがとうー 』
やったーと喜んで手を振れば蓮さんは帰り際に隆一さんに耳打ちして帰っていった
あっという間に部屋に戻ったなって思い、久々に歩いた事に疲れてソファーに座れば、彼はお茶を入れ持ってきてくれた
「 疲れたろ?ゆっくり休め 」
『 ……色々聞きたいことがあるけど…いいや。なんか、めんどくさい 』
「 嗚呼、そうしてくれ 」
他の女を気にする事もないし、実際に私のお腹の中にいる子は隆一の子供で間違いはない
御茶を飲み、何度か撫でていれば隣に座ってた彼は背中と膝裏に腕を伸ばした
『 わっ……なに? 』
「 子供ばかりに構うと…妬くかもしれん 」
『 子供欲しがってたくせに…… 』
「 ふふっ、そうだな 」
膝の上に座らせられ、後ろから抱き締められればその手は腹下へと置かれ優しく撫でられる
恋愛とか分からないままに、彼の傍にいるから不思議な感覚だと思う
でも、嫌いだとは思えない……寧ろ好きなんだと思っても言わずに胸元へと背中を当て凭れていた
「 ……ルイ…好きだ 」
肩口へと顔を埋める彼に、優しく頭を撫でては耳へと口付けを落とす
『 ん……私も……好きだと思う…… 』
「 十分だ 」
最初のイメージよりかなり柔らかくて優しい人
孕ませるだけ孕ませて、スキンシップなんて無いのかと思ってたけど全然あるし
寧ろ優しすぎて怖いぐらい……
綺麗で格好いい横顔を見れば顎に触れる
「 んー? 」
『 そう言えば……三十四歳なんだ?髭ないの…なんで? 』
「 元々薄いが…半永久脱毛してるからな…… 」
『 じょりじょり……ない!? 』
「 ククッ……嫌なくせに 」
そんな、流石金持ち美容に拘っていいな!って思えば頬を擦り当ててくる事に笑っていれば、ふっと今まで以上に恋人らしいんじゃないかって思う
『 ははっ…くすぐったい…… 』
「 可愛いなぁ…ルイは 」
頬へと口付けが落とされ、片目を閉じれば彼と視線が重なり、どちらともなく唇は重なる
『 ……エッチ出来なくなるのは残念 』
「 ソフトセックスを調べておくさ 」
『 ……現代っ子ぽいね、何でも調べるって 』
「 調べないと、教えてくれって言うと笑われる立場だからさ 」
彼の立場を把握してない、きっと私の地位とはかけ離れた存在なんだろうね
傍にいるのに遠い感じする…
重ねた手の平に感じる指の長さとか見ていれば、軽く指は握られ、彼は片手にスマホを持ち画面を見せてくれた
「 これ……御前の三歳の頃と、俺の写真 」
『 えっ…… 』
「 パーティー会場出会ったとき。ケーキ一緒に食べたりしたんだ 」
画像欄をスライドして、古い写真を見せてくれれば其処には若い隆一とまだ小さな私がいる
話で聞くより本当の事だと実感して涙が流れ落ちる
『 こんな……チビに、約束しても……覚えてるわけないじゃん…… 』
「 そうだな、でも俺が覚えていればいい。それに今…御前は妻だ。誰のものでもない 」
涙を拭き、頭を撫でる隆一に涙を我慢しようとする
パーカーの裾で涙を拭いていれば彼はポケットを探る
「 ルイ……左手出してくれ 」
『 ん……なに? 』
重ねていた指を外し、変わりに左手を出せば小さな箱を開いた
『 わっ…… 』
「 試作品だ。サイズ分からなかったから、入るか分からん… 」
婚約指輪と呼ばれるものに、肩へと顎を乗せたまま指を取り左手の薬指へと嵌めれば、ぴったりのサイズに驚く
『 えっ……ぴったりだよ? 』
「 流石俺…普段触ってるだ、ぐっ!! 」
右腕の肘で溝内辺りを勢いよく押さえれば、彼は息を詰め、眉を寄せる
『 これ、貰いたい 』
「 試作品だからこのサイズで作るさ。もう少し待ってくれ 」
『 ……分かった 』
私から上げれるものは何もないけど、色々と貰ってばかりだと思う
外された婚約指輪の寂しさに、少しだけ落ち込めば彼は耳へと口付けを落とし囁く
「 ……御揃いの指輪、嬉しいか? 」
『 そりゃ、妻だし…… 』
「 ふっ、なら急がせる 」
触れる指先は互いに指を絡めて、少しだけ身を委ねてゆっくりしていれば彼は片手を腹下に当て
反対の手を握り締めたまま、眠りについていた
静かになったことに気付き振り返れば、出逢ったときより無防備だと思うしこうやって膝の上に座らせたまま寝るなんて…
『 ……そんなに私が好きですか?なんて…さて…晩御飯作って上げようかな 』
たまにはオムライスでも食べたいなって、起きるの覚悟で膝の上から退いて、キッチンへと行き冷蔵庫を開ければ、その中に入ってる料理の匂いだけで気分が悪くなり、口元を手で押さえてトイレへと駆け込んだ……
『 くっ……ゴホッ……おぇ…… 』
上から退いた事には起きなかったのに、嘔吐する声で目を覚ましたのか、トイレへと来た彼はしゃがみこみ背中を擦ってくれる
「 大丈夫か?夕食、食えそうか? 」
『 ん……頑張る…… 』
そう言っても元々メンタルが弱い私には、食べても吐く
匂いで気持ち悪いと食欲を無くせば、食べなくなるのは早かった
こんなにも……辛いなんて……
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