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亜久津情児は久しぶりにまた日本に戻ってきた。
ちょっと前まで、父の仕事の都合でインドにいたのだが、父の転勤がいよいよ終わり、また日本に戻ってくることになったのだ。
例によって、インドに行っても、学校には1日通っただけで、すぐに不登校になってしまった。
その後は、またお定まりの引きこもり生活を送っていただけである。
せっかくインドには様々な観光地もあるので、情児の父母はよくそうした観光地巡りを行なったのだが、外に出るのが嫌な情児はそんな観光地などに全く興味がなく、インドにいる間、せいぜいたった1カ所の観光地を巡っただけで、後は何処にも行く事はなかった。
結局、インドの有名な場所や観光地などのことなど一切関知せず、例によって部屋に閉じこもった生活をインドに行っても情児は繰り返していただけだった。
日本に帰ってきても、だから単に部屋がインドのアパートの部屋から日本のマンションの部屋に変わっただけで、全く同じ引きこもり生活を続けているだけであり、さして変わり映えのしない生活をインドと日本を股にかけて反復しているだけとも言えた。
しかし情児は、インドに居た頃、またまた偶然たった一回だけ出かけた際に遭遇してしまった強盗事件を、警察に協力して推理し解決してしまったので、またインドでも、不本意ながら有名人になってしまった。
事件を担当したヨゲンドラ刑事はとりわけ情児を気に入り、事件解決後、情児を「神様」と呼び、高級なインド料理のレストランに招待するほどだった。
ただ情児が困ったのは、インド人はある日突然知り合いの家を訪問する風習があるようで、ヨゲンドラ刑事も、用もないのに情児宅を何度も訪れるため、情児はいつも部屋に隠れて毎度居留守を使うこととなった。
"インドで訪問客は神様と思え"と教えられていた情児の父母は、よくわからないまま神様相応のもてなしを、毎回情児の代わりにヨゲンドラ刑事に施していたので、いつ間にか父母とヨゲンドラ刑事が仲良くなり、情児のことは忘れ去られていった。
しかし情児にとっては、これ幸いとなり、そこから情児は、ヨゲンドラ刑事を気にすることなく、悠悠自適の引きこもりライフを満喫したのであった。
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