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精進落としの料理を食べる食堂には、葬儀の参列者が大方揃っていた。 情児の父が言っていた通り、それほど参列者の数は多くなかったが、それでもそれなりに人はいた。 情児の席の向かいに座っているのは、亡くなった故人の仕事関係の人間で、故人が勤めていた丸藤商事の社員の松波、桑田の両名らしい。 その隣にいるのは、故人が卒業したR大学数学科時代の友人のタクシー運転手の宮田、その隣は故人の妻・美穂子の初老の父母らしかった。 全員、ただ黙々と仕出し弁当を静かに食べているだけだった。 その向こう側のテーブルには、サラリーマンの田辺、老夫婦の松原夫妻など、故人の家の近所に住む、生前わりと懇意にしていた人たちだそうで、その隣には、故人の妻、美穂子と、その息子の与二郎が座っていた。 妻・美穂子は少しやつれたような風情を漂わせていたが、息子の与二郎は目つきの鋭い、どこかちょっと不良っぽい雰囲気の若者だった。 情児はひたすらこの場をやりすごそう、早く食事を終えて帰りたい、ということばかり考えていたが、しかし、そんなことばかり思うのも、亡くなられた故人にちょっと失礼な気もして、出来る限りこの葬式に出ている間は、それなりにきちんとした振る舞いをしようと思っていた。 あんまり知らない人の葬儀とは言え、どうやら故人は殺人事件に巻き込まれて殺されてしまったようだし、あそこに座っている母子遺族のことを考えると、そうそうやる気のない態度を見せるわけにもいかないな、と思っていた。 かといって、こんな知らない人たちばかりと、この精進落としの場で話すことなど何もないので、まぁ他の人たちも黙々と仕出し弁当を食べてるだけみたいだし、自分もただ黙って仕出し弁当をひたすらゆっくりゆっくり食べて、気がついたら時間が来てました、というパターンでやり過ごせばいいだろうと考えていた。 しかし"やり過ごしたい"という雰囲気を露骨に出してしまってはいけない。 やはり出来るだけ、深刻な表情を浮かべながら、真剣に仕出し弁当をゆっくりゆっくり食べなくてはいけない。 とにかく、この仕出し弁当を一生懸命食べることに集中すれば、自然とこの時間はやりすごせる上に、そうやる気なくも見えないだろう、と情児はひたすらそんなことばかりを気にしていた。
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