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葬儀が終わり、情児が家に帰ると、しばらくして電話がかかってきて、父が電話に出ているようだった。
情児は自分には関係ないと思って、すぐに自室にこもり、しばらく本を読んでいたが、部屋のドアがノックされ、外から父の声が聞こえてきた。
情児が渋々扉を開けると、そこには父が立っていた。
「水神って刑事さんから電話があったよ。事件に協力してくださいってさ。お父さんからもよろしく言ってくださいって言われたんで、わかりましたって言っといたけど、よかったかな?」
水神刑事はさすがにやることが早い。
すぐに父にアポイントメントを取って、情児に揺さぶりをかけてきたわけだ。
"よかったかな?も何も、あなたに頼まれる方が断りにくい…"と情児は父に対してそう思いながら、まぁここまで来たら協力せざるを得ないのだろうなぁ…と思い、
「わかったよ」
と父に返答して、すぐに部屋のドアを閉めた。
父はそれ以上は何も言わず、部屋の前からすぐに去っていったようだった。
こういうところに父の気遣いを感じるので、情児はそうやって気を遣ってくれる父に、何か言われると、中々断りにくかったのだった。
水神刑事がそこまで、こちらの事情を知ってるかどうかはわからないが、まあここは協力するしかないか、と情児は思い、断るのを諦めた。
しばらく、一週間ほどの間、何事もなく日々は過ぎ、情児は安穏として引きこもりライフを満喫していた。
いつの間にか、水神刑事に頼まれていたことなども、ぼんやりと忘れかけていたのだが、その日、また水神刑事から家に電話があり、本日夕方頃にお宅にお邪魔致します、という連絡が入ったようだった。
情児は夕方まで暇をつぶし、水神を待っていると、4時ごろに水神は忙しいところを抜けてきたように、少し汗をかきながら家に入ってきた。
情児はすぐに水神と一緒に、この家のこじんまりとした応接室に入った。
母が用意したロールケーキと紅茶が、テーブルに二組置かれていた。
「いつも、どうもすいません!」
水神は外にいる母に向かって、わりと大きめの声でそう礼を言ったが、お腹が空いていたのか、すぐにロールケーキをガツガツ食べ始めた。
「うまい!うまいですよ、これ」
水神に促されて、情児もすぐに食べたが、なるほど中々の美味だった。
「それではさっそく、事件について説明させてもらいます」
水神は紅茶でロールケーキを胃に流し込んでから、少し居住まいを正して、情児にそう言った。
「はい」
情児は、そうボソっと呟きながら、すぐに水神の方を見た。
「ガイシャ(被害者)の最後の言葉の中に、与二郎、つまり息子の名前が入っていました。そこで息子がこの事件に関係している可能性があることを考えて、任意ですが、息子の与二郎を引っ張って事情聴取を行いました」
「そうですか」
「息子はまだ未成年ですが、過去に補導されたことがあり、警察に色々記録が残ってましたから、まぁ、それでうちの上司も、未成年とは言え、彼の事情聴取に、わりとすぐに賛同してくれました」
「はあ…」
「それとガイシャの父親と、この息子の与二郎は普段からあまり仲が良くなかったようで、近所の人の証言によると、たまに言い争う声が、家の中から聞こえてくることがあったようです。そのことから、この息子が容疑者である可能性も考慮しながら、事情聴取を行いました」
「そうなんですか」
「ええ。まだはっきりしませんが、今の段階ではこの息子が殺人の容疑者として一番有力と警察では見ています」
水神刑事はそう言うと、一息入れて、紅茶をゴクリと飲んだ。
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