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6
「しかし…」
水神刑事の話を一通り聞いたところで、不意に情児は言葉を挟んだ。
だがすぐに遠慮がちに引っ込めたが。
「何ですか?」
逆に水神は目を爛々と輝かせて、情児の方を見た。
「いや…」
「何か気になったことがあるんでしたら、おっしゃって下さい」
水神はさらに情児を凝視して、迫るようにそう言った。
「はあ。それではお言葉に甘えて…あの、被害者の最後の言葉、つまりダイイングメッセージですが、それは"与二郎の言う通りだった"でしたよね」
「はい」
「でしたら、そのダイイングメッセージの意味を考える方が先ではないかと…すいません」
そう言うと情児はすぐにはにかんだ顔をして、俯いた。
「ええ、それはまぁ確かに。ただ息子の与二郎に、父を殺す動機と言うか容疑者に最も近い要素がありすぎるもんですから、どうしても与二郎犯人説で動いてしまっているところがありまして…」
水上はそう言うと、恥ずかしいのを誤魔化すかのように、紅茶をまたゴクリと飲んだ。
「そうですか。確かにお話を聞く限り、一番犯人に近そうなところがありますからね、ただしかし…」
「わかります。ダイイングメッセージの意味をまともに考えないというのは、順当な手順を踏んでいるとは言えないかもしれないです」
「息子の与二郎さんが被害者であるお父さんに、最後に何を言ったのかについてはお聞きになりましたか?」
情児は少し目を光らせてそう聞いた。
「ええ、それがですね。珍しく仲の悪い息子の与二郎が見舞いに来たらしいんですね、入院中の父親の個室に。その時に少し話をしたらしいんです」
「どんな話ですか?」
「担当してる医師についての話みたいです。どうもこの息子は反抗的というか、大人に対してすぐ反逆的な目を向けるところがあるみたいなんですが、その担当医というのも何故か嫌っているらしく、それで…」
「それで?」
「ええ、与二郎は父に"あの医者はヤブ医者だ"と言い放ったそうなんです。同じ病室にいた母親がそれを聞いていました。それが与二郎が父に最後に言った言葉だそうです」
「はあ、それなら…」
控え目にだが、情児は静かに、水神にそう呟いた。
「はい、わかります、それで言えばダイイングメッセージが指し示しているのは息子の与二郎ではなく、担当医ということになりますよね。いや、どうしてもこの与二郎という息子の態度が悪すぎるので、おまけに犯行動機まであるということで、どうもそっちに容疑者説が傾いてるんですが、一応、今、この担当医の方の捜査も進めています。まだ何もわかっていませんが、分かり次第またご報告します」
「そうですか…」
本当は、"お願いします"とか"ありがとうございます"と情児は水神に言いたいところだったが、それを言ってしまうと、益々この捜査の沼にどんどんハマってしまいそうで、敢えて言わないでおいた…
いや、もうとっくの昔に、捜査の沼に情児はどっぷりハマり込んでいるのだが…。
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