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 通学途中の朝。毎日花屋の前を通るから、伊織と俺に挨拶してくれるようになった、りりぃ。  ある日彼女は言った。  この夏服を見て「紺色のシャツに水色のネクタイ、すごく素敵ですね。あまり見たことないかもです」と褒めてくれたことがあった。  りりぃが気に入ってくれたシャツも、今はびしょ濡れになって雑巾のように絞れそうだった。  顔に叩きつけるように降り注ぐ雨も、この恋には味方してくれないのだろうか。  雨なのか、それとも涙なのか。  わからないくらい、情けない顔は濡れていた。  濡れついでに空を見上げる。この制服も切ない俺の心も、分厚いグレーの雨雲に飲み込まれそうだ。 (さすがにもういないだろう)   もう帰ろうと思い、やみくもに走ってきた道をまた引き返す。  え──……りりぃ?  俺の視界に突然、薄紫色の傘をさしたりりぃが飛び込んできた。  何かの間違いじゃないかって思ったし、この状況に勘違いしてもいいの? とさえ思った。でも男性の姿はない。  りりぃは、短く息を切らす。 「私、ちゃんと君に飴を貰ったお礼、言えてなかったから」  彼女はこの雨の中を走ってきたのか息を切らし、白いローヒールパンプスも濡れてつま先が汚れていた。  こんなびしょ濡れになった俺を、本当は情けなくて見せたくなかったのに。  彼女は薄紫色の傘を「はい」と差し出す。自分の傘を持つように俺に託すと、りりぃに左腕を掴まれた。  黙々と歩き、雨宿りできる所へひとまず入った。
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