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1話 ドラゴンはもう見えない
立澤隆之介は幼い頃から、空にドラゴンが泳いでいるのを見ていた。
打ち上がった野球ボールを追っていたとき、学校からの帰り道の夕焼けに、受験の合格発表の午前の空に、ふとした時にはそこにいた。
しかしそれらのような光景も高校三年生になってからはパッタリと消え去った。三年生の進級を前に部活を引退し、思うようにいかない大学受験に追われていたら、いつの間にか。
今は春の入学シーズンを終えた頃である。そしてそれは隆之介たち受験生にとって、勉強するか食事をするかの二択しかない生活を強いられるまで秒読みの時期だった。
彼は模試の結果を片手に帰宅する。結果は散々で、担任には「もっと勉強しないといけないな」と言われた。
自宅に帰ったら帰ったで、成績表を強奪した両親にも担任を同じような言葉を告げられた。確かにその通りだと思ったので机に向かったが、小一時間ほどで勉強道具の片づけが終わってしまった。今回判定をもらった大学は学力に合わせて決めたからだろうか、熱が入らなかった。
自室の窓から夕暮れの空を伺う。
そこにドラゴンはいない。
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