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 ギンガムチェックのトップスにデニムのショートを履いた女性、ベレー帽の追跡者とは異なり、普通の十代から二十代前半ぐらいの女性にしか見えなかった。  なぜこの女性が自分の背後に迫るまで気付かなかったのか、奏には理解できなかった。  普段なら背後からの存在に気付かないことはある。しかし、今は奏の中で最大限の警戒をしていた。それでいて背後を取られるとは想像もしていなかった。ましてやこんな華奢そうな女性に取られるとはーー、 「貴方は……?」  状況を理解できず、戸惑う奏に黒髪の女性は大きくため息をついた。 「あ、やっぱりわからないのね。予想してたとは言え……、哀しいなぁ。私のこともわからない? 残念すぎる。一体、どうしてこんなことに」  女性は一方的にまくしたてた。 「私は……、小島奈美(こじまなみ)。……って言ってもわからないのかな?」 「はぁ……」 「やっぱ、そんな反応になるよね。レヴィ……の認識ってないの?」 「だから、そのレヴィって?」 「……聞いた私がバカだったよね。うん、わかった。何も知らないのね。忘れちゃったなら教えてあげるしかないね。貴方の正体を」  奈美が腕組みをしながら奏に近づいてくる。 「こんな木陰で会話してたら、怪しい会話してますって言わんばかりね。歩きながら話しましょうか」  奈美は微笑んだ。その微笑みに悪い予感しかしなかったが、奏は彼女の言葉に従うことにした。 「逆らうと何だかキケンな気がする」  そんな言葉が奏の脳内に響いていた。
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