3/6

19人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
 公園の遊歩道を奏と奈美は歩いていた。  何も知らない人が見れば、大学生の男女が歩いているぐらいにしか見えないだろう。  しかし、奏にとってはこれから何を奈美が話すかもわからず、どこか恐ろしさのようなものを感じていた。 「レヴィ……じゃわかりにくいのかな。貴方の名前は?」 「あ……、水沢奏(みずさわかなで)です」 「じゃあ、水沢くん。どこから話せばいいかな……、そうだな。貴方は自分で普通の人間ではないってことぐらいは気づいているわよね?」  奈美の問いかけに、どう反応すべきか悩んだが奏は頷いた。 「貴方に特別な(ちから)が備わっていることは、一部の人も知っているの。というか、他にも貴方のように特別な力を持っている人はいるの。私も含めてね」 「小島さん……も?」 「そう。貴方の力とは少し種類が違うけど。まぁ、いろんな力があるわけね。それぞれの力を早い話、悪用しちゃうとこの世界のバランスに干渉していくこともできてしまう」 「世界……とか出てくるとスケールが大きな話に聞こえてくるね」  奏は笑ってみせたが、奈美は笑っていなかった。冷めた表情で奏を見ていた。冗談ではないのだと奏は理解した。 「……水沢くんは自分の価値を全く理解していないのね」  目を少し細めて、奈美は呆れたような顔をした。 「……まぁ、いいわ。そもそも私たちがなぜこんな力を持っているかというと、一言でいうと、花の力を貰っているからなの」 「花……ってフラワーの花?」  まさか『鼻』ではないだろう、奏は頭の中でそんなことを考えた。 「そう。なんていえばいいのかしらね、花にまつわる言葉が私たちには宿っていて、いわゆる花言葉ね。その言葉が私たちには宿っているの」 「花言葉……って、黄色の薔薇は『嫉妬』とかいうあれのこと?」  奈美は「そう」と言って頷いた。 「私たちはその花言葉にちなんだ属性を持っているの。私の場合は、カモミール。貴方の場合はレヴィガータ」 「レヴィ……ガータ? カモミールはわかるけど、そのレヴィなんとかっていうのは……」 「まぁ、学名なんて普通知らないよね。レヴィガータって言うのは、いわゆる『カキツバタ』のこと」 「ああ、それなら聞いたことある」 「その力を貴方は持っているせいで、ちょっと悪いところからも狙われちゃってるってわけ」 「へぇ……カキツバタの花言葉なんて聞いたこともないけど、なんかそんな力があるの?」 「カキツバタの花言葉は……、はっ!」  奈美が突然、後ろを振りむいた。一瞬、遅れて奏も振り返る。  追跡者が迫っていた。先ほどのベレー帽とは異なる二人の追跡者だった。黒いパーカーのフードを被った高校生ほどの少年だった。奏たちまであと僅かの距離まで迫っていた。  その辺を歩いている人物とは異なる陰湿な波長、奏の頭に危険信号が響く。 「……一旦、逃げるわよ!」  奈美が走り出すと同時に、奏も走り出す。 「あーあ、もうちょっとだったのに」  少年が呟いた。それほど悔しそうな素振りはなかった。スマホを取り出し、誰かに電話をかけた。 「そっちに行ったよ。あんたがどうやるのか知らないけど、捕らえてもらえる? 足止め程度でもいいけど。僕の『檻』に閉じ込めるから」  少年は電話を終えると、奏と奈美が走って行く方向へゆっくりと歩き出した。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

19人が本棚に入れています
本棚に追加