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奏は奈美の身体を両腕で抱えた。いわゆるお姫様抱っこの形だ。崩れながらも僅かに残る地面を飛び越えつつ、移動していた。
常人からは並外れた身の軽さには自信のある奏は、奈美を抱えながらも残る足場を頼りに次々と乗り移っていく。
飛びながら、次の足場を探す奏だったが、目の前に大きな地割れが現れた。向こう岸までは大雑把に五メートル以上ある。
まともな助走を取ることもできず、ましてや奈美を抱えた状態で、この距離を飛び越えるのは不可能だった。一瞬、背後を確かめたが、たった今飛んだ場所も崩れはじめている。
「まずい!」
奏がそう叫んだときだった。
奈美の身体が光った。全身から眩しい光が放たれた。
思わず奏は目を閉じ、奈美の身体から顔を背ける。それでも奈美の身体を手放しはしなかった。
やがて、目を閉じたままでも、その光が弱まっていくように感じ、奏は目を薄っすらと開いた。奈美の身体から発せられていた光は収まっていた。
しかし、周りが柔らかな光で包まれている。足元も頭上も左右も、奏が両手を伸ばせそうな距離より少し長い範囲で光の球体に包まれている。
光の球体が地割れに挟まっているような状態だった。
「これは……?」
「私の力みたいね」
奈美は落ち着いた口調で言った。
「え……何その、自分でもわからないみたいな口調」
「だって私にもこの力が何かよくわからないもの」
少し怒ったような口調で奈美は言った。
「はい?」
「私の花の力はカモミールって話したよね? カモミールの花言葉って知ってる?」
「いや? 全く知らない」
「『逆境で生まれる力』」
「逆境……。今みたいな状態?」
「そう。私はね、身の危険が迫ると新しい能力に目覚めるの」
得意げな顔で奈美は微笑んだ。
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