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昨日の『猫に興味がなさそう』という印象が付いてしまった僕は、姫咲さんに嫌われてしまったのであろうかと悶々とした時間を過ごしていた。だがその心情とは反して次の日もその次の日も彼女は僕の部屋を訪れた。
完全に猫目当てですけどね。
けど、きっかけは何でもいいんだ。これはラッキーなんだ。学生証を落とした自分と親に感謝しなくちゃならない。
「あ、あの……立ってるのもなんですし、部屋にどうぞ」
いつものように猫を撫で回していた姫咲さんに精一杯の勇気を出した。声が震えているのがよくわかる。緊張で足がガクガクする。むしろ僕が立っていたくない、座りたい。
「良いんですか?? お邪魔しますね」
断れてるのを前提にしていたが、姫咲さんは結構あっさりとしていた。僕が呼吸を乱してドクドクと脈打つ心臓を押し潰されそうになったってのに即答か。……有難いけどこの様子からして脈はなさそうだ。でもここから恋人まで繋げられるかどうかが肝心だよな。
あぁ……うん。でも100%に近いくらいに無理っぽそう。僕には度胸もなければアピール出来るようなものもない。美女と野獣以上にあり得ない。
「犬房さん?? どうかされました??」
「あ……す、すみませんっ! 今お茶出します!」
僕はベッドの前でちょこんと座る彼女を見ながらお茶の用意をした。背筋を伸ばし正座をした腿の上に猫を乗せている様は絵画を見ているように絵になる。今日はブルーのワンピースだ。とても清楚でお美しい。
姫咲さんを観察しながらモタモタとお茶とお菓子の準備をしていると、彼女は足が痺れたのか少し位置をずらした。
可愛い……何気ない仕草なのに可愛いと思ってしまう。いや、男だったら誰しも思うよ。好きな子だもん。
だが自分の部屋で足をモゾモゾしている女性を見て興奮してるとか僕は変態か……。
「っとそうだ。この猫、アトネックって名前だそうですよ」
「はい。首輪に書いてましたね」
お茶菓子を机に置くと姫咲さんはこちらを少し見て猫のあごを擦りながら言った。
知っていたのか……まぁ普通は首輪を見たら気付くよね。よく『他人に興味がないよね』と言われるが、自分の周囲への関心のなさがここぞとばかり身にしみた。
今までの自分なら引いてしまうくらい姫咲さんには興味ありすぎるんですけどね。
「あ、あ……の……。ね、猫、好きなんですか?」
猫の声だけが響く部屋で、僕はたどたどしい声音を何とか絞り出した。
「はい。とても……大好きです」
緩んでいた彼女の表情から更に笑顔が溢れる。天使の輪が光り輝く長くて美しい髪を触りながら小さく首を縦に振る仕草は最上級に愛くるしい。まさに天使……いや女神!! 僕に対しての言葉では無いとわかっていても勘違いをしてしまいそうだ。これは録音してずっとリピートしていたい。
このままではよからぬ事を考えてしまいそうになった僕は、お茶を一気に飲み干した。
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