ずっと見守っています

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彼女は10年ほど前からここに住んでいる。 それから、僕はずーっと彼女を見守っている。 家族と仲良く食卓を囲んでいる様子も。 子どもたちがテラスに出て遊ぶのを夫婦で眺めている様子も。 時々起こる、兄妹喧嘩。親子喧嘩。夫婦喧嘩。 そういえば、こんなことがあった。 彼女の夫はお酒を飲むことが好きなようで、 よく酔っ払って夜中に帰ってくる。 一度、夜中酔っ払って門から入ってきた彼は、 足を絡ませて倒れ込んだ。 数分後、その物音を聞いた彼女が恐る恐る 様子を見にきた。 そっと近寄り、夫を介抱するのだろうか… 息を潜めてその様子を見ていると、 彼女は倒れている夫を覗き込み、 しばらく思案した後、立ち上がってまた家に入っていった。 ま、まさか…このまま夫を置き去りにするのだろうか。 待てども待てども、もう彼女は戻ってこない。 僕は唖然とした。 夫はそこで、スヤスヤと寝息を立てている。 季節は夏。 確かに凍え死ぬことはないだろう… しかし… けれど、彼女がそのあと現れることはなく、 朝を迎えた。 朝になり、まだそこで寝ている夫をまた何事もなかったような顔で 彼女は起こしに出てきた。 「起きて、起きて。」 「ん〜」 僕は吹き出しそうになる。 彼女は平然としている。 夫は気がつかない。 そして、朝食の時間に楽しそうに前の晩の顛末を語って聞かせる。 「ひどい!起こしてくれたらいいのに!」 夫は言う。 そうだろうと僕も思う。 「大丈夫、息をしてるかどうかは確認したから!」 彼女は生存確認だけして、生きている、と分かると 夫をそのまま寝かせたのだ。 愛情があるようなないような… けれども何故か笑える。
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