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プロローグ
制服から私服に着がえ、鏡の中の自分と目を合わせて眼鏡をかける。ロッカーを閉めて更衣室から出ると、私は店長の翼に声を掛けた。
「お先に失礼します」
「お疲れ。あ、沙雪ちゃん」
呼び止められ、足を止める。はい、と返事をして翼の言葉を待つ。
「外、雨だけど大丈夫?」
「あ……雨なんですね。折り畳み傘持ってるので大丈夫です」
店内は外の音が一切聞こえないため、天気も把握できないようになっている。折り畳み傘は一応毎日持ち歩いていた。
「そう。よかった。気を付けて帰ってね」
「はい。お疲れ様です」
柔らかく微笑む翼に会釈をして、裏口の扉を開く。まるで別世界に来たかのように、音が耳に入ってきた。土砂降りだ。
空を見上げて思わず小さくため息をついた。仕事先のバーから家までは歩いて十五分くらい。傘を持っているといっても、家に着く頃にはきっとびしょ濡れになっているだろう。覚悟を決めて、傘を広げた。
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