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午前一時。途中で目にする駅付近にも人の姿はない。雨の音しか聞こえないため、ひとり取り残されたような感覚だ。歩みを進めて、住宅街に入っていく。
すると、前方に傘もささずに立っている男女が見えた。ひとりは二十代半ばくらいの女性。もうひとりは――。
ぱちっと目が合い、思わず息を呑む。黒い髪に、黒い瞳。雨越しでもわかるくらい、顔がずいぶん整っている。表情はなく、その目にも感情は映っていない。
「ちょっと、聞いてるの!?」
女性の声が雨の中に消える。
「聞いてるけど、さっきからずっと」
「そういう態度が嫌だって言ってんの!」
明らかに怒っている様子の女性に、男はだるそうに息を吐く。どうしよう。ふたりの姿を見て、その先に続く道を見る。ここを通らないと、私は家に帰れない。それほど狭い道ではないが、少し気まずい。傘の柄を持つ手に力を入れ、私は意を決してふたりの横をすり抜けようとした。
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