プロローグ

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「何してんの」 「えっと、その、よかったら使ってください」 「あんたが濡れるじゃん。もう手遅れだし」  濡れた服を見せるようにして言う。しかしそんなことを言われて、はいそうですかと引き下がるのも気分が悪い。 「私の家はすぐそこなので」  そのまま傘を渡して立ち去るつもりだったが、男は「ふーん」と言って私の手の上から傘を持った。 「じゃあ俺も行く」 「え?」  目を丸くする私から傘を奪い、「どっち?」と言いながら私の方に傘を傾ける。送ってくれるということだろうか。経験したことのない事態に困惑しながら、結局私は家まで彼と並んで歩いてしまった。
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