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「家、ここなので」
アパートの部屋の前で伝えるが、彼は帰る様子がない。立ちすくむ私に、男は首を傾げる。
「入らないの?」
「入ります、けど」
「じゃあ早くしてよ。寒い」
催促されて慌てて中に入ると、当然のようについてきた。
「あ、あの、もしかして、泊まるつもりですか」
なけなしの勇気を振り絞っておそるおそる聞くと、彼は頷いた。
「俺、行くとこないし」
「で、でも、男の人を家に入れるのは」
「だめなの? なんで?」
「だ、だって、だって」
言葉に詰まる。よくないことなのはわかっているが、混乱しているため上手く言語化できない。
「いいじゃん。ちゃんと礼はするし」
男は私に顔を近づける。びくりとして目をぎゅっと閉じると、
「ね、お願い」
耳元で囁いた。
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