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その人は、目を血走らせて私を見下ろしていた。 「…お前がやったのか?」 私の後ろには女の人が倒れている。頭がなかった。だって、私が切り落としたのだもの。凶器は私の足元に置いてあるこの斧だ。  透き通るような白い大理石の床はどす黒い赤に染まっていた。血にはまだ、少しぬくもりが残っている。不思議と、血液から漂う、特有の生臭い匂いはしなかった。もう、私の嗅覚はどうにかなってしまったらしい。 「質問に答えろ。お前が殺したのか?」 彼は、声を荒らげた。だが、その声はかすかに震えていた。いや、声だけではない。大の、180cmはゆうに超えるであろう大人の男が、肩を震わせるのを見たのは初めてだった。私は小さく頷いた。首に冷たい、重い刃があてられた。嗚呼、私はとうとう死ぬんだ。でも、そんなことどうでもよかった。私が彼女を殺した、弁解の余地はない。私は、守りたいものを何一つ守れなかった。自分の信念も、あの人との約束も。ごめんなさい。ごめんなさい。私は深く息を吸って、目を閉じた。
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