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「若、それって書庫に保存されていた「八岐大蛇伝説」ですよね?」
曇り空の影が車内に重なる早朝。
エンジンの音に包まれ、車内の揺れに身を預けながら書物を読んでいる青藤色の髪の少年に目の前に座っている優しげな少年が声をかけた。
彼が読んでいる書物には、草書で「八岐大蛇伝説」と記載されており表紙も年季が入っている。
お陰で紙も黄ばんでいた。
「ああ。平安時代、難波京付近で八岐大蛇が地上に蘇り、雨羽雷郷という青年が絵で封印したという話だ」
「感慨深いですよね。ご先祖様にそのような方がいたら一層気が引き締まります」
「お前はもう少しその緩んだ顔を引き締まらせたらどうだ?」
「なっ!?これでもいつも気を引き締めていますよ!」
優しげな少年は、ムッとした顔で青藤色の髪の少年を睨みつける。
だが、彼はこちらの目を気にせず書物を閉じ窓の外を見つめた。
薄暗い曇り空の下には、町の象徴である標高900mの「天尾山」が誇らしく構えておりその麓には建物がいくつか並んでいる。
天気が良ければそこら辺の山より綺麗に見えるかもしれない。
「朱籠町……江戸時代、雨羽家五代目当主である雨羽宗左衛門がここを拠点とし、あらゆる妖を封じてきたと言われているらしいな」
「はい。ですが……今はその伝承は途絶えられ、雨羽家の存在を知る者は我々のみ。その「八岐大蛇伝説」の本もきっと若が持っている一冊が最後でしょう」
優し気な少年の視線に倣うように、青藤色の髪の少年は自分の手に持っている書物に視線を戻す。
「伝承など、今はどうでもいい。俺達がやるべきことはただ一つ、あの町で使命を果たすことだ」
「それは勿論、心得ています」
薄い笑みを浮かべ、優し気な少年は両耳に付けている雫型の赤い耳飾りをゆらりと揺らす。
目の前にいる視界に映る海より深い紺色の瞳は、視線の先に並び建つ町を見据えていたのだった。
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