ただ、見ていただけ。その景色をずっと

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ただ、見ていただけ。その景色をずっと

夕方、仕事からの帰り道。 いつもと変わらぬ道のりを歩いていた時、 反対側の歩行者道を、1組の家族が手を繋いで歩いていた。 恐らく父親と、その子供だろう。 小さな女の子は、父親の膝ぐらいの身長で、紺色の制服を着ていた。 帽子も被っているが、若干斜めにズレている。本人は然程気にならないらしい。 アスファルトに向かって蹴っては、また蹴って。たまに父親の方を向いて話しかけている。 対して、手を繋いでいる父親らしき男性は、ずっとその子を優しい表情で見つめている。 女の子が、急に立ち止まると、男性はしゃがんで、諭すように彼女に穏やかに語りかけた。 話の内容は分からない。 暫くすると、女の子はニコッと満面の笑みを浮かべてまた歩き出す。 今度は父親と繋いでいる手をぶんぶん振って、必死に彼に話しかけている。 なにか良いことがあったんだろう。 その表情はまるで向日葵のようだ。 明るくて、煌めいて、誰もが憧れるような笑顔だった。 彼は、父親になったんだ。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 4年前、私達の関係は終わった。 結婚に踏み切れない私と、結婚して子供が早く欲しかった彼と、その道が交わることは無かった。 私は、家族というものを信じていない。 結婚し、子供をもっても、その子供が幸せになれる保証など何処にもないことを知っている。 生まれてきた意味を幼いながらに、自分に問いかけ 自分のせいで、家族が壊れていると信じて疑わず 今日という絶望から、抜け出す方法は 永遠に眠ることしか考えられなかった。 親の喧嘩や暴力で、子供を悲しませることは絶対したくない。 自身の身をもって体験した過去から皮肉にも学べることがあった。 あれほどまでに胸を引き裂かれるような辛い思いは二度とごめんだ。 家に帰っても、空気は冷たくて。 両親が揃う日は、いつもびくびく怯えていた。 頭にこびりついて離れない金切り声の叫ぶ声、 聞くに耐えない罵声で埋め尽くされる夜は、悪夢のようだった。 大人に体力も能力も劣る子供は非力でしかなくて、何度も何度も、仲裁したくて掛け合ったが、まともにわたしの話など聞いてもくれなかった。 相手を蔑んで、人格否定して、何になる? なぜ一緒になったのか。 全く親の心情が理解できなかった。 わたしがいることで、無理矢理、両親が共同生活を送っているのなら、 わたしは生まれてこなければ良かったと何百回、いや何千回も思った。 いっそのこと、早く死にたいと。 だからこそ 子供を幸せにできないなら、初めから子供なんてつくるなと。 責任を持てないなら、泣かせてばかりいて不幸にするぐらいなら手放してやれと。 家族なんていらない。 それが、私の人生の教訓だ。 自分の経験を無駄にはしない。   親と同じ血を引いている私は、虐待の連鎖を犯すかもしれない。 もし、子供ができて、自分で自分をコントロール出来なくなったら… 一番愛しいはずの存在を傷つけてしまったら 二度と取り返しはつかない。 そんなことは、きっと耐えられない。 だから 同じ不幸を繰り返さないために、私は生涯独りでいるべきだ。 今もその考えは変わっていない。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー あんな優しい顔で笑う彼を、初めて見た。 一瞬我が目を疑うほどに。 正しい道を進んでる。 よかった。 あなたは、シアワセになったんだ。 こちらには気づきもしない。 それでいい。 手を繋いだその温もりを、決して手離さないように。 家族のかたち 君は正しかった。 そして、きっと わたしも間違ってなかった。 END
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