1 少女と小石

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1 少女と小石

 しゃがんだ少女が小さな手のひらを広げ、3つの小石を地面に転がした。小石はそれぞれ小さな繭のような形だが赤っぽいもの、黄色っぽいもの、青っぽいものと三色ある。彼女は指さし確認をするように転がった石を確認している。 「赤と青が遠くて、赤と黄が近いから……」  小首をかしげ少しだけ考え込んで「わかった!」と嬉しそうに声をあげた。その瞬間後方で「何がわかった?」と声が聞こえた。  しゃがんだまま振り返り見上げ「あっ」と立ち上がった。立派な装いと品の良い少年に少女は慌てて頭を下げる。おそらく王子のうちの一人であろう。肩までかかる艶のある黒髪はきちんと櫛で漉かれ、絹糸より美しい。透明感のある声と同様に、肌艶もよく透き通った印象を受ける。 「よい。面を上げよ。で、なにがわかったのだ」  少女と年が変わらないはずであるが、もう威厳のある振る舞いに少女は恐る恐る答える。 「今日、友ができると……」 「ほう。そなたは占い師か」 「はい」 「どれ、私も一つ占ってもらおうか」 「え、あの、まだ人を、あの、若様を占うことなど許可されてません」 「かまわん」 「で、でも……」 「早ういたせ」 「あの、ハズレても、処罰はないでしょうか?」 「はははっ。そんな心配をしておるのか。処罰などせぬ。安心いたせ」 「で、では……」  少女は石を拾い上げ、両手に包み三回振った。 「それっ」  手の中から飛び出した小石は地面に散らばって落ちた。 「えーっと」  さっきと同じように3色の石の位置や角度などを確認する。 「あらっ」 「どうした?」  少しだけ心配そうな雰囲気を見せた王子に「申し上げます」と笑顔を見せる。 「ん。申せ」 「若さまにも今日、ご友人ができるようです」 「ほう。なるほど。しかしもう、これからは寝殿にもどるだけだ」 「そうですか……」 「ということはつまり、そなたが私の友になるということだな」 「え? そ、そんな恐れ多い」 「そなたの卦にも同じことが出たのだろう?」 「確かにそうです」 「では、そういうことだ」 「はあ……」 「名は?」 「胡晶鈴(コ ショウリン)と申します」 「そうか。晶鈴か、私は隆明(リュウメイ)だ」 「隆明さま」 「さまはいらぬ」 「で、でも」 「友にさまなど付けぬであろう」  気さくに言われても、王子を呼び捨てにするなど死罪も免れぬ不敬罪に問われると思い、晶鈴はうつむく。 「晶鈴はいくつになる?」 「11です」 「ふむ。私は12だ。隆兄と呼べ。私は晶妹と呼ぶことにする。それならどうだ」 「そ、それなら。あのほかの人がいなければ、そう呼びます」  妥協するような気持で晶鈴は頷いた。小石を拾いあげていると遠くから女官の声が聞こえた。 「若君ー。どこでいらっしゃいますかあー」 「やれやれ、ここで見つかると面倒だ。じゃあ、またな晶妹」  隆明はぱっと衣を翻し、茂みの中に入っていった。晶鈴はほっと胸をなでおろす。 「はあ、緊張した。あとで老師に若さまのことを聞いてみようかしら」  まだ占うことを許可されていないので、そのことは伏せて隆明のことを尋ねてみようと太極府へと戻った。
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