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「相棒って存在は、お互いが信頼しているものじゃないかな。だけど、あの娘の僕に対する態度はどうだい?口を開けば文句ばかり。やれ掃除をしろとか、買い物を手伝えとか」
「それは…正論じゃないかな?」
呆れたように、ギレルモが言った。
親友の冷えきった視線に怯みながら、アヤトは言葉を続けた。
「それはそうなんだけど、僕としてはもう少し優しさが欲しいんだ。疲れてる時は労って欲しいし、ガミガミ言われるだけじゃやる気も出ない。君なら解るだろ?」
「まー…解らなくもないけど」
実際、人間は怒られたり叱られたりするだけではモチベーションは上がらない。
一部の特殊嗜好の持ち主は喜ぶかも知れないが、それは極一部の限られた層の話である。
残念というか、当然というか、アヤトもギレルモも特殊な層の住人ではない為、意見は一致していた。
「要するに君は甘やかされたいってわけなのかな?」
「別にそんなつもりはないよ。ただ、時々でいいから朝寝坊させてくれたり、好きな物を買わせてくれるだけでいいんだ」
ーーーそれは相棒というよりお母さんだね。
優しいギレルモは喉元まで出掛けた言葉を飲み込んだ。
「彼女のことが嫌いって訳じゃない。大切な存在だと思っている。だだね、あの口煩いのだけはどうにかならないかな?相棒っていうのなら相談に乗ってくれたり支えてくれてもいい筈だ。大体、あの娘は僕の気持ちを…」
怒濤の勢いで噴出するアヤトの愚痴を、ギレルモは諫めるわけでも同調する訳でもなく聞き流していた。
要は二度寝をしたいが為の言い訳である。加えて、愚痴と言っても惚気に近いものの為、一々マトモに取り合ってはいられなかった。
それに、ギレルモは知っている。
なんだかんだ言いながらも、アヤトは自らの相棒を信頼していることを。
「…聞いてる?」
アヤトが訝しげな視線を送る。
「ああ、勿論」
ギレルモが頷くのを見て、アヤトは得意気な表情になると、そのままベッドに横たわった。
「そんなわけなんで、僕はもう一度寝るよ。心と体の回復の為にね」
「そうかい。じゃあ、ボクは先に朝食を頂くとしようかな」
ギレルモがドアを開ける。
すると、ドアの向こうから焼いたパンの薫りが流れてきた。
相棒が朝食の支度をしているのだろう。
アヤトは少し考えた。
朝食に遅れれば、また文句の一つも言われるのだろう。だが、まだ寝ていたい。体が起き上がるのを拒否している。
怒られるか、二度寝か。
数分の審議の末、アヤトは二度寝を取った。
わざとらしいイビキをかいて、ギレルモと朝食の匂いを無視する。
「…アヤト、先に行くよ。朝食のネタに君の理想の相棒像についての話をするとしよう。君の相棒と一緒に」
ギレルモが背を向け、ひらひらと掌を振る。
「まっ、待ってギレルモくん!僕も行くよ!」
アヤトはベッドから起き上がり、慌ててギレルモの後を追った。
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