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「原田のご飯はほんとに美味い」
「藤田さんの方が美味いけどな」
光石邸に勤める家政婦の藤田さんは、料理が上手だ。食べ盛りの肇にあわせて、ボリュームのある料理を多く出してくれるようだし、安心できる。
「俺は原田のご飯の方がいい」
肇の言葉に笑って返す。
「そうか、ありがとう」
「原田がいい、毎日原田がいい」
真っ直ぐな瞳で見つめられ、まるで射抜かれたような気分になる。口にする言葉も真っ直ぐで、返す言葉に詰まってしまうし、笑ってしまう。
「毎日は無理だけど時々なら作るよ」
「俺は毎日原田といたい」
もそもそと親子丼をかきこみながら、淡々と口にする肇を眺めつつ、まるでプロポーズされているようだなと蓮は小首を傾げた。いや、家政婦を希望されているのか。
食べ終わり、ごちそうさまでしたと声をあわせたあと、肇は食器をシンクまで片付ける。この辺りの教育はしっかり出来たなとひとり満足しながら、肇のあとに続いた。
「風呂は入っていくか?」
「うん」
「湯船沸かそうか」
「シャワーでいい」
バスルームへ向かう肇を見送ったあと、食器を洗いながら時間の計算をする。肇が帰る時はタクシーを呼ぶ。光石邸まではタクシーで四十分程かかる。あまり遅くなっては明日にも響くし、社長に申し訳がたたない。
とはいえ社長は現在、第二秘書と共に海外へ出張中で、ひとりきりの家に帰すのも少々心が沈む。ひとりは慣れていると肇は口にするけれど、ここへ来るのは寂しいからだ。それがわかるから、甘やかしてしまう。
キッチンを片付けてリビングのソファへ腰をおろした頃に、肇が戻ってきた。濡れたままの髪で現れたので、肩にかけている白いバスタオルを取り、髪の水分をとってやる。
「ドライヤーで乾かさないと風邪をひく……」
言い終える前に、肇の唇に塞がれた。バスタオルを被ったままの肇に押し倒され、蓮の視界は肇の顔と白い空間に包囲された。口を開く前に再び唇が重なり、隙間から肇の舌が侵入してくる。
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