夜明けを願い、夢をみる

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 大真面目に大きな事を公言する肇の腕の中で、蓮は顔を見られなくて良かったと思った。今の自分の表情は見られたくない。 (ああ……)  全ては社長の思うままだと、改めて思い知らされる。  社長は大事な一人息子を心から愛して、大切に思っている。それが少々歪んでいて、息子本人に伝わっていなくても、蓮にはそれが強い愛だと理解できる。  光石は、息子の強いハングリー精神を大きく引き出すことに成功した。後継者として育て上げる為の最重要課題を、蓮という駒を使って成し遂げた。  恐らくそれは最初から仕組まれた事だったのかもしれないと気付いた時、蓮の中でばらばらに離れていたピースが組み合わさり、胸の中ですとんと収まった。 (それでいい)  社長と肇のためになるなら、自分はいくらでも駒として立ち回れる。  光石と肇は、自分に生きる居場所と、役割を与えてくれた。自分に注がれた、唯一の光。  何にも変えられない、誰にも渡さない。 「原田、なんとか言えよ」  ふてくされた声が聞こえる。蓮は微かに頬を緩めて、肇の肌の熱を感じながら、両腕でぎゅうと抱きしめた。こんな自分から離れないと言ってくれた、最愛の人。  蓮は肇を抱きしめながら、小さな声で、愛しているよと囁いた。 <おわり>
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