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◇◇◇◇◇
蓮が瞼をゆっくりと押し上げると、目の前は真っ白な世界だった。何度か瞬きをして、ようやくそれが白い天井だと気付く。
(身体が、重い……)
もそりと身体を動かしたのち、体中に包帯が巻かれた状態で、ベッドに寝かされていると理解した。何本もの管が繋がれている。右目も塞がれていて、見える景色は半分だ。自分が今どんな姿なのか確認したいけれども、あいにく鏡らしきものはみあたらず、それ以前に身体はぴくりとも動かない。
(病院、か)
俺は何でこんなところにいるんだろう。
本社へ向かった。菅谷が居て、話をして……。タクシーに乗って、帰る途中だった。光石邸へ。
炎と黒煙が吹き上がる光景が脳裏に蘇り、ゆっくりと思い出していく。
(そうだ、肇、肇は)
起き上がろうとしても身体は動かない。その時にやっと、左手に感じる温かな感触に気がついた。
すぐそばに、肇は居た。
蓮の左手を握り締めたまま、蓮の身体にすがるようにベッドへ顔を埋め、眠っていた。涙の跡がみえる。泣いていたのだろうか。大きな子供だ。
なんて格好で寝ているんだと、起こしてやりたいのに声がでない。声にならない声でかすかに笑うと、肇の指先がぴくりと動いた。
「……はらだ……?」
顔を上げた肇と目が合う。でも声がでない。かわりに繋がれた指先に精一杯の、かすかな力を伝えた。気付いた肇が、蓮の左手を、更に強く握りしめた。痛い。こっちは怪我人だというのに容赦のない子供だ。
蓮は小さく安堵の息を吐き、瞼を閉じた。肇が無事で良かった。
「あんた、あんた……なにやってんだよ」
震える声が聞こえ、閉じた瞼をもう一度開くと、肇の瞳は真赤に潤んでいた。
「俺なんか助けようとして、死にかけたんだぞ……ば、馬鹿かよ」
死にかけた、ということは、生きながらえたのかと、冷静に受け止める。二度の火事を、自分は生き延びたのか。我ながら悪運の強い人間だなと感心する。
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