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豪邸が立ち並ぶ閑静な住宅街。その中では控えめな、高い塀に囲まれた一軒家の前で、黒塗りのセダンが停車した。蓮は後部座席の窓から建物を見上げ、直ぐに体勢を正面へと戻す。セキュリティが解除され、門が開かれると、車は敷地内へと進んだ。
(社長のご自宅への訪問は、奥様の葬儀以来か)
葬儀の席で見た、ご子息の姿を思い出そうとするが、容易に思い出せない。
(あの時のご子息はまだ十歳で、小さな子供だった……五年経って、どう変わったものか)
「原田様、お待ちしておりました。どうぞこちらへ」
蓮を笑顔で出迎えた初老の女性は、家政婦の藤田と名乗った。
「本日より暫くお世話になります」
蓮は丁寧に会釈をした後、早速ですが少々お話を伺ってもよろしいでしょうか、と話を切り出した。
「肇くんは現在、どのような状態でしょうか。社長から詳細は伺っておらず」
藤田は戸惑いの表情を浮かべつつ、口を開いた。
「私はここに勤め始めてまだ一ヶ月程で……、前任の方はその、住み込みで勤務されておりましたが、肇さんと折りが合わなかったようで、退職されました」
(息子に追い出されたってわけか)
「肇さんは、以前は勤勉で物静かなお子様だったそうです。半年ほど前から急に素行の悪い輩と親しくなったようだと、前任から聞いています。私は日中家事をしておりますが、住み込みの勤務ではないので、夕食の準備を終えた後に退社致します。肇さんとは夜の時間にお会いする事は殆どなく、朝食時にほんのひと時、お会いする程度で……」
(何時に帰っているのかは不明という事か)
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