353人が本棚に入れています
本棚に追加
まだ中学生の子供が居る家にしては随分と無用心ではないかと、社長に物申したい気持ちになる。母親を亡くし、父親も家を空ける事が多い状況で、肇はひとりで暮らしているようなものではないか。
申し訳なさそうな面持ちで話す藤田に、怪しげな様子は見当たらない。
「朝の様子はどのような」
「はい、朝食の準備が整い次第、内線でお伝えしています。ご本人からのご希望なので……。朝食はきちんと召し上がり、学校へ向かわれます。ただ、私が挨拶をしても返していただけることはなく……嫌われているのでしょうね、申し訳ないです……」
藤田との会話を終えた後、蓮は客室へ通された。十二畳ほどの洋室は柔らかな木目の家具で統一され、南側の大きな窓からは十分に光の入る造りとなっている。
藤田が退室した後、蓮はクローゼットに上着をかけ、ネクタイを緩めながらデスクチェアへと腰をおろした。
「やれやれ……」
自分に今回の使命が果たせるだろうかと、蓮はため息を一つ吐いた。
光石の話は酷く短いものだった。素行の悪くなった息子を更正させる事。期間は住み込みで最長半年。その間の通常業務は全て第二秘書へ委ねる事。
蓮の心中は穏やかではなかった。これまで築き上げた光石との関係を、第二秘書の狡猾な男に奪われかねない。
角度を変えれば、光石の言葉は、戦力外通告にもとれた。
(いや……そんなはずはない。社長は俺を愛していると言った)
半年もポストを明け渡すわけにはいかない。
(三ヶ月、いやひと月で戻る。それにここは社長の自宅だ。ご帰宅の際には、必ず会える)
最初のコメントを投稿しよう!