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スーツを脱ぎ、部屋着の服装に着替えるとすぐに、ノートパソコンを開いた。今朝送られてきたばかりの、肇に関する資料。まずはこれを全て頭に叩き込む。
十九時を回った頃、家政婦の藤田が退社した。肇はまだ帰宅していない。
光石から預かった肇の写真を眺めながら、蓮は広い食卓でひとり、夕食を食べ始めた。藤田の食事は十分に美味い。鯛の煮付けを口に運びながら、だが中学生の子供のメニューとしてはどうだろうかと、首をかしげた。
写真の中の肇を見つめる。中等部の入学式だろうか、名門学院の門の前で制服姿の少年が一人、不機嫌そうな表情で立っている。短く整えられた黒髪に、太く凛々しい眉が印象的な少年だ。父親に良く似ている。切れ長の目元が涼しげで、蓮好みの容姿だ。あと十年経てば良い男に育つだろうなと独りごちた時、玄関の鍵を開ける音が聞こえてきた。壁時計を見上げると、時計の針は二十時を少し回っている。
「ご子息様のご帰還か」
予想よりも早い帰宅に少々安心し、蓮は肇を出迎えるべく立ち上がった。
「あんたが、親父が派遣したっていう家庭教師か」
第一声は、肇の方だった。
蓮の挨拶が出遅れたのには理由がある。眺めていた写真と目の前にいる少年が、全く別人に見えたからだ。
だらしなく気崩した制服に、短く刈り上げたプラチナブロンドヘア。両耳に連なるピアス。百七十五センチの蓮と並ぶ程の身長。目つきは悪いが父親によく似た目元を見て、写真の彼と同一人物だと理解した。ほんの二年そこらで、子供とは随分と成長するものだなと、蓮は妙に感心した。
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