さいごの待ち合わせ

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さいごの待ち合わせ

 喫茶店Repos(ルポ)は、オフィス街と住宅街の境、大通りから外れた小路にひっそりとあった。  こぢんまりとしたレトロな雰囲気の店で、還暦近いマスターが一人でやっていた。常連客もそれなりにはいたが、人通りが少ないせいか、時間帯によっては、お客さんが一人もいなくなることがあった。  そして、そんな時には、特別なお客さんがやって来ることがある。  その日は、午後三時を過ぎたというのに、お茶をしに来るお客さんもいなかった。少し前まで、近くで事故でもあったのか救急車やパトカーのサイレンが聞こえて騒がしかったが、今はそれも静まり、マスター一人の店内にはラジオから流れるアナウンサーの声だけが響いていた。  カランコロンカラン 「やってますか?」  ふいに店を訪れたのは、二十代前半の若い女性だった。どこかに出かけてきたのか、これから出かけるのか、メイクも服装もおしゃれな今どきの若者という感じだった。 「ええ、どうぞ」  その女性は、カウンター席に腰かけた。マスターは、女性のことを見たことがあるような気がしたが、思い出せずにいた。  ラジオを切り、店内用BGMに切り替える。上品なピアノ演奏が流れ出す。 「ブレンド、お願いします」  マスターは、珈琲を入れ始める。女性は、店内を見回した。 「やっぱり良い雰囲気のお店ですね」  やはり来たことがあるのかと、マスターは女性を見た。 「何度か待ち合わせに使ったことがあるんですよ。友達の会社が近くて。まあ、最後に来たのは半年も前だから、マスターは覚えていらっしゃらないかもしれませんが」 「そうでしたか。……どうぞ」  マスターは珈琲を差し出しつつ、記憶を辿った。確かに時間差でやってくる、若い女性二人組がたまにいたように思う。女性は珈琲を口にする。
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