キックはお預け

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先輩がキックの練習を始めた。 何が原因でこんな事練習するのかさっぱり分からない。 分からないが僕は公園で先輩のキックを眺めている。 回し蹴りというやつなのだろうか。 先輩がシュッと息をはく。 スカートがはためく。 僕は少しドキドキしてしまう。 真剣な表情で先輩はへなへなのキックを続ける。 明らかに効かなさそうで僕はちょっと笑ってしまった。 しばらくして先輩の息が上がってしまう。 しばらく休んだ後先輩が感想を聞いてきた。 もちろんキックの感想だった。 「どうだ?私のキックは」 「まあまあじゃないですか」 先輩が少しむっとした顔になる。 「本当はバカにしてるんだろう?」 表情から僕がどう思っているのか筒抜けになっているのだろう。 何となくうれしかった。 僕の足元で乾いた音がした。 先輩だった。僕の太ももを蹴っているのだった。 先輩は真剣だがキックの威力は哀しくなるぐらいに小さい。 先輩はだんだん不機嫌になって行った。 「今日はこれぐらいにしてやる。3日でかたを付ける。もう今みたいな顔はさせないぞ。びっくりさせてやる」 訳の分からない事を言って先輩は去った。 丸3日先輩とは連絡が取れなかった。 学校にも来ていない様子だった。一体どういうことなのだろうと考えているうちに3日経った。 放課後後ろから駆けてくる音がした。 先輩だった。 「いつもの公園でまーつ」 僕に言い放ち、先輩は駆け抜けていった。 僕が公園につくと涼しい顔の先輩がいた。 ウォーミングアップするみたいに先輩は軽くキックをした。 うなるような音がした。 つむじ風が起こった。僕は風圧で倒れそうになった。 頬がピリピリして痛かった。少し切れたかも知れなかった。 人間離れした威力だった。 先輩は3日間すごい努力をした。 そしてすごいキックが出来るようになった。 しかしこれほどまでになるとは。怖い。 「3日前の続きだ。私は頑張った。喰らえ」 先輩は僕の太ももを蹴ろうとしていた。 僕の顔をじろじろ見て とまどった挙げ句やっぱり顔にするといった。 まったく良い趣味してるよ、先輩は。 あんなキックをくらったら骨が砕けてしまう。しかし先輩の性格上本気で蹴ってくるだろう。顔がなくなるかも知れない。 先輩が蹴る。ばしゅっと言う音と共に何かが光った。 おいおい、キックが光るのかよ……、聞いたことないぞ。 世界の全てがスローモーションに見えた。死ぬ前に全てがスローモーションにみえるという。 先輩の脚がじりじりと近づいてくる。つま先が目に向かってくるのが分かる。 僕はもうアウトなのかも知れない。 先輩の脚が向かってくるスピードは本当に遅い。 僕は先輩のキックはゆっくりと迫ってくる。 先輩は半笑いの顔をしている。バカっぽくてムカつく顔だった。 僕は先輩の顔を眺めつつ、この世の終わりを待つ。 了
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