P.D.D.

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燈子が頬ばっているランチセットのベーグルサンドは、端からレタスやこんがり焼けたベーコンがあふれそうで見るからにおいしそうだ。 「ソースついてる、左側」 「へ?」 本当に子どもみたいだ。指が見当違いのところをかすめていくのを見かねて、つい沙保は彼女の口もとに付いたソースを舐めとった。とたんに穏やかだった燈子の顔色が焦ったように変わって、自分たちが同性同士だということを思い出す。 彼女は辺りを見回した。ここにコーヒーを運んできた背の低い店員の女の子、カウンターの中にいる男性の店員、店内のソファ席に座っている数組の客。誰とも視線がぶつからなかったのか、燈子はホッと息をもらした。 こそっと沙保にだけ聞こえる声で、彼女はささやいた。 「…恋人みたいに見えちゃうって」 「違うの?」 「そうだけど、外ではさ…」 「わかってるよ」 一見、自由奔放な燈子も、扉の外ではかなりこういうことを気にしていた。今では人前でも手を繋いでくれるくらいにはなったけれど、同性同士なのを気にしているのと、そもそも愛情表現を他人に見られるのが気になるのと、理由はその両方だと思う。 沙保は表情には出さなかったものの、おもしろくないのが正直な気持ちだった。散々振り回された上に、こんな沙保にしてみれば大したことのない事で責められるのだから。 そろそろ行こっか、と燈子が立ち上がった時、沙保は左手に持ちかけた荷物を半分、いつもなら空けておく右手に持ちかえた。 夕方になってチェックインした海沿いのホテルは、全国的に名の知られたチェーンだった。老舗の旅館の貫禄ある外観はそのままに、内装を改築してさらに高級感を演出していた。そしてその割に、従業員の雰囲気は四角張ったところが無くて好感が持てた。 「仲のいいご姉妹ですね」 そう言われるまでは。 「え…」 「なかよしなんです〜」 沙保の戸惑いを覆い隠すように、燈子のにこやかな声が響く。張り付けられた完璧な笑顔に、心がざわつく。こんなのは社交辞令だ、そんなことは分かっているのに。
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