1章 萌黄色の……

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 3年前には家も建て替えを余儀なくされた。  元は染料の工場(こうば)を備えた、趣のある町家だったのだが、これを取り壊し、4階建ての鉄筋コンクリートのマンションを建てたのだ。  1階は住居兼工場(こうば)として残しつつ、2階より上を貸し出すことにして、減った収益を支えているというわけ。  大事な思い出の詰まった家を壊すなんて、と同居するおばあちゃんには散々泣かれたものの、京都の中心地であるというお土地柄、結構な高値をふっかけても入居希望者は後を絶たず、その家賃収入でなんとか家業を続けることができている。 「お父さんはもう工場(こうば)に入ったはるん?」  いつもは亜沙子と同じ時間に朝ごはんを食べているはずの父、哲朗の姿が無いから聞いてみた。 「先月峰平さんとこが店たたまはったから、その分の注文が来て今は忙しいねんて」  同業者の廃業による一時的な特需に喜ぶより、明日は我が身かと恐ろしい気持ちにしかならないらしい。依子は蒸し暑いにもかかわらず、ぶるっと肩を震わせていた。 「ところでアコちゃんは、今日から通常授業やっけ?」 「そやで」  亜沙子は頷いた。先週中間試験が終わって、その直後に東京へ3泊4日で修学旅行へ行ってきたところ。食卓の脇には浅草土産の雷おこしの箱がまだ置いてある。 「中間試験悪かったんやから、今からでもしっかりな。このままやったらろくな高校行かれへんさかい」  いつまでも旅行気分で浮かれてたらあかんで、と急に眉尻を吊り上げる依子に、亜沙子は「はーい」と小さくなって返事をした。
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