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勉強は苦手だ。特に英語なんてさっぱり分からない。京都は外人の観光客も多いんやから、その辺歩いとるのに教えてもらってきぃや、と哲朗は無茶苦茶を言うけれど、そんなことできるわけないし。
亜沙子は朝ごはんのトーストを口に詰め込むと、これ以上のお小言を喰らわないようにそっと洗面所へ逃げ込んだのだった。
亜沙子が通っているのは徒歩20分のところにある地元の公立中学校。
一昔前までは生徒数も少なくてわずか2クラスしかなかったけれど、最近の都心回帰傾向の高まりや、古都への根強い人気も手伝って、この界隈にもマンションやらがぽこぽこ建つようになり、数年前からは倍の4クラスになっている。
「おはよぉさん」
「おはよ」
登校したあさこは下駄箱でクラスメイトの堀井亘と顔を合わせた。
制服である白シャツに身を包んだ彼は、小柄で浅黒い肌をした、がっちりした体格の男子だ。幼い頃からずっと続けている坊主頭がトレードマークで、亜沙子とは幼馴染だから仲も良い。
しかし亜沙子が挨拶以上の会話を交わすことなく行ってしまおうとしたから、彼は「なんや、愛想無い奴なぁ」と後ろを小走りについてきた。
「せやかて、うちなんかとしゃべってるとアリスがまた怒るで」
アリスというのは亘の彼女のこと。
アリスは名前ではなく苗字の有栖川からきているあだ名で、その名だけ聞くとお公家さんのようだが、お父さんの出身地は徳島で、しかも近年増えているマンションに引っ越してきたうちの一人だから、特に格式ある家のお嬢さんでもないらしい。
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