1章 萌黄色の……

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 亘とアリスは中2の3月から付き合い始めたものの、翌月のクラス分けで離れてしまった。それなのに亜沙子の方は亘と同じクラスになったものだから、アリスからやたらと妬まれているのだ。 「先週の修学旅行でも、うちがあんたと同じ班やっただけで、どれだけアリスに睨まれたか知ってるやろ」 「平気やって。今朝もあいつが校門とこで部活の後輩に呼び止められるまで一緒にいたったんやし」 「一緒にいたったって……なんであんたが上から目線やねん」 「だって俺がこんなんやりたいわけちゃうねん。でも向こうがどうしてもって言うから一緒に来てるだけで」  亘はこういう男だ。  せっかく可愛い彼女がいても、自分のペースを乱されるのが嫌と言うか、面倒くさがりというか……。  アリスの乙女心を理解してやろうともしないひどい奴。 「あんた、前の彼女と別れた直後にまた告白されたからっていい気になったらあかんで。全部が偶然。たまたまやからな。アリスかて本来、あんたなんかにはもったいないくらいの美人さんなんやし」 「へいへい」 「全く……なんで亘なんかがええんやろな。中身も外見も全然イケメンちゃうのに」  亜沙子はぼやきながら亘と一緒に教室へ入った。  その直後に担任の棚橋先生が入ってくる。抑揚に乏しい発音で英語を教える中年男性だ。まだ始業時間でもないのに今日はやたらと早いなと思ったら、彼は後ろに机を抱えた背の高い男子生徒を連れていた。  教室内は一気にざわめく。  誰なんやろ、とひそひそ会話しあう皆の視線が集まる中、長身の男の子は自分で運んできた机を先生の指示により廊下側の一番前に置いた。元々そこにあった亘の席は少し後ろへとずらされる。
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