21人が本棚に入れています
本棚に追加
「転校生? 珍しいなぁ、こんな時期に」
「私立でいじめられでもしたんちゃうか?」
亘の推察も無理は無かった。彼は長身ながら細身で、色白で、少し長めの前髪が揺れる下に覗くのは柔和で綺麗な顔立ち。いじめられても手向かうことなどできそうにない雰囲気だ。
しかし朝のホームルームが始まってすぐに、亘の予想が外れたと知ることになった。
「東京から来ました、鈴木宗志といいます。よろしくお願いします」
なるほど。いじめではなく単に親の仕事の都合か何かで遠方から転校してきただけだったらしい。
それにしても教壇に立つ彼が落ち着いたトーンの標準語を発するだけで、教室全体が大きく波打つようだった。
その身長ゆえに一番後ろの席に座っていた亜沙子はクラスメイトらの間に走る動揺を、ぐるりと見渡すことになったのだ。
今までテレビの中でしか聞いたことが無かった標準語が教室の中に響いているものだから、みんな違和感を覚えているようだ。多分、地球の反対側のブラジルからやってきた少年がポルトガル語で挨拶をしても、同じくらいのリアクションになったと思う。
しかも女子らの感動には、別の意味も含まれているみたいで……。
「なぁなぁ、どうして京都に来たん?」
「こんな時期に転校なんて珍しいやん。あと1週間早かったら修学旅行も一緒に行けたのに」
「きゃはは。鈴木君は東京から来たんやから、東京旅行なんか面白くないで」
ホームルームの直後は棚橋先生の英語の授業だったから暇が無かったものの、一時間目が終わった瞬間には、なんとクラスの女子たちが大挙して彼の周りへ押し寄せることになったのだ。
最初のコメントを投稿しよう!