1章 萌黄色の……

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 転校生が物珍しいだけではなく、長身で優しい顔立ちをした、しかも東京から来た子ということで、みんな色めき立っているらしい。 「かなわんわ、あいつらうるそぉて」  転校生のすぐ後ろの席になってしまった亘は、黄色い声を上げる女子らにたまりかね、亜沙子のところへ避難してきた。 「すっかり王子様扱いやん。いけ好かん奴やわ」 「王子扱いは鈴木君のせいちゃうやん」  拗ねたような口ぶりの亘に亜沙子は思わず吹き出してしまった。 「みんなが勝手にきゃぴきゃぴ言うとるだけやし。鈴木君は無実やで」 「なんや、あんなんの肩持って。亜沙子はあぁいうんが好みなんか?」 「なんですぐ、そういうのに結び付けんねん。ただ、うちらとは雰囲気からして違う、東京らしいスマートな感じの子やなぁって思っただけやし」 「何がスマートやねん。ひょろっとして今にもぽっきり折れそうなだけやんか」  亘は自分の席が女子たちに占領されてしまったから、とにかく気に入らないようだ。  大きく唇を尖らせて「お前も気になるんやったら、あん中、混ざって来ぃや」なんて言い出す。  そんなこと、できるわけないのに。そういうのが許されるのは派手めの明るい子か、自分の容姿に自信のある美人系か。  亜沙子は背だけはズバ抜けて高いが、クラスの中で目立つほど賢くも無ければ可愛くも無い。亘のように古くからの知り合い相手なら強気にも出られるが、基本的に内弁慶な性格だから、初対面の王子様とお近づきになるなんてありえない。  しかしそんな亜沙子の身にこの次の、つまり2時間目と3時間目の間の5分休憩で異変が起きた。
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